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異世界 2
《サタン side》
やっと....やっと我が愛しの姫君がこの世界に降り立ってくださった。
腰まである艶やかな黒髪に澄んだ黒い瞳。肌は白を通り越して少し青白い。ピンク色の柔らかそうな唇とほんのり色付いた頬。
体はとても小さくて華奢だ。
うるうると潤ませた瞳で上目遣いをされると結構堪える。
この方がこの世界に降り立つことをどれだけ待ち望んだことか....!きっと、姫を今か今かと待ち続けたのは私だけではないだろう。あらゆる人外たちが姫の降臨をずっと待ち望んでいた。
予定より大分遅い降臨だし、神の不手際で別世界に姫は今まで飛ばされていたが、それももう今日で終わりだ。
彼女は私達人外だけのお姫様。一生をかけて愛し、守る存在。大切な大切な唯一無二の姫。
絶対に離さない。どこにも行かせない。
黒い感情を彼女に悟られないように優しい笑顔で隠しながら、そっと彼女の頬に手を伸ばした。
触れたい、と思ってしまったんだ。
だが、彼女の頬に降れる直前でパシンッと手を弾かれてしまう。
そこでハッと我に返った。
私はなんてことを.....!初対面の奴なんかに触れられそうになったら、嫌がるのは当たり前だ!
不味い....非常に不味い。このまま彼女に嫌われたら、私は生きていけない。
「あっ!す、すみません!あ、あの!お、怒らないで....!」
彼女は尋常じゃないくらい体を震わせながら、頭を庇うような体勢を取った。
何かが可笑しい、と私の本能が言っている。
尋常じゃないほどの震え。頭を庇う動作。加えて『お、怒らないで....!』という台詞。
怯え方が普通じゃない。
この子は元居た世界で暴力を振るわれていたんじゃないか?
もし、そうなら色々と辻褄が合う。
彼女が最初半泣き状態だったのはただ単に見知らぬ土地にいきなり連れてこられて不安だったからだろうと思っていたが、それは違った。彼女が怯えていたのはこの場所やこの世界じゃない。私、だ。
.....この子の元居た世界に行けるのなら、今すぐそこに行って彼女に暴力を振るった奴を殺してしまいたい。私達の愛しき姫君を傷つけて良い者などこの世には存在しないのだから。いや、存在させない。存在するのなら、抹消するまで。
「姫、大丈夫ですよ。怒っていませんから。それに一番最初に貴方に危害は加えないとお伝えした筈です。私は貴方を傷付けることは絶対に致しません。それにさっきのことについては私に非があります。許可もなく、いきなり触れようとして申し訳ありませんでした。どうか、罪深き私をお許しください」
「あ、え....ぁ、や....その、謝らないで下さい....!サタンさんは悪くないです!!」
頭を深々と下げる私に姫はあわてふためく。
その様子がとても可愛らしくて、ついつい笑みが溢れた。
この方のためなら、何でも出来る。姫のためならば、殺しだって厭わない。
その前に姫を囲わなくては。
安全な場所に囲って、たくさん甘やかしてあげたい。
東洋の国には『可愛い娘には旅をさせろ』という、ことわざがあるらしいが私はその考えには同意しかねる。可愛い娘は大切に囲って甘やかして育てる、が私の考えであり願望だ。
「姫、立てますか?これからのことやこの世界のこと、そして姫のことを是非我が城でお話ししたい。移動したいのですが....」
姫はこの申し出にすぐに頷こうと首を縦に振りかけたが、中途半端なところで首をピタッと止めた。
何か問題でもあったんだろうか?
「姫、何か問題がありましたでしょうか?」
「うっ....えと、その....」
「言いたくないのなら無理に聞き出しませんが、教えてくださればその問題を私が解決致します」
姫はその大きな瞳を再び潤ませながら、視線を右往左往させている。
実に可愛らしい。
小動物みたいで物凄く愛でたい。可愛がりたい。甘やかしたい。
そんな衝動を理性でグッと押さえ付けながら、姫を安心させるように微笑みかけた。
「じっ、実は...体に上手く力が入らなくて....その...あっ、歩けな、くて....」
歩けない....?
こちらの世界へ来る途中に大分筋力を奪われたのかもしれませんね。時間が経てば、自然と戻ると思いますが....。
いつまでもこんな場所に姫を置いておくのは気が引ける。
「姫、失礼しますね」
「え?何が.....?って、おわっ!?」
私は軽々と姫をお姫様抱っこした。
おっと、予想以上に軽いですね。
片手....いえ、指一本で持つことが可能な軽さです。まあ、バランスが崩れたら大惨事になるのでしませんが。
「ええっ!?あの!私、重いので....!」
「いいえ、全く重くありませんよ。軽すぎて驚いているところです」
「っ....!うぅ、あの....でも、私のことお姫様抱っこなんて嫌なんじゃ....」
「いいえ、全く。むしろ、嬉しい限りです」
私からすれば役得以外のなにものでもありません。
姫の優しい花の香りがふわりと香った。
良い匂い....。ずっと嗅いでいられますね。
恥ずかしさのあまり俯く姫を良いことに私はそっと顔を寄せた。
すると、花の香りが一層強くなる。
私は別に匂いフェチという訳ではありませんが、この香りは癖になりますね。
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