異世界 6

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異世界 6

《サタン side》 ひ、姫が笑って下さった! 嗚呼っ!なんて可愛らしいんだ!! 今すぐ姫を抱き締めたい衝動にかられるが、それをなんとか理性で抑え込む。 「さて、次はディアナの体質について説明しようか。ディアナ、君は“あらゆるものに愛される”という特殊な体質を持っている。まあ、君が元居た世界ではあまりその体質の効果は発揮されなかったみたいだけどね。でも、この世界ではきちんと効果を発揮出来るから安心して」 姫はデウスの説明に困惑しつつもコクンと小さく頷いた。 私やファーセリアも最初は姫の体質に惹かれていただけだが、あの戦争後、時折私達の前に現れる姫と関わっていく内に本当の意味で好きになった。 笑顔の似合う優しい女の子。 私達はそんな姫が大好きでならなかったのだ。この笑顔を守るためならなんでも出来る、と本気で思えるくらい。 だから、許せない....! 姫を別世界に飛ばした上にこんなにも傷つけて...!姫との約束がなければ、今すぐ首を切り飛ばしてやりたい...! 「ディアナの体質と説得によって戦争は無事終結し、私達と最強種族の間には平和条約が結ばれた。それから数百年後、ある事件が起きた。人族がディアナを襲ったんだ。ディアナは神である私の子とはいえ、まだまだ子供。そこまで力を持ち合わせていなかった。君は人間達に殺されかけたんだ....私やサタン達が急いで駆け付けたが君はもう虫の息だったよ」 そう、姫は一度愚かな人間どもに殺されかけている。 今でも目を瞑ればあのときの光景が鮮明に思い出される。 焼かれた肌、止めどなく溢れる赤い液体、毒を飲まされたのか肌は所々赤紫色に変色していた。 私は多分、あのとき初めて涙を流した。 本気で姫が死んでしまうと思ったんだ。 私の唯一無二であり、癒しであり、愛する存在であった姫君。 “失う”という恐怖を生まれて初めて味わった。 「あそこまで弱ってしまえばもう神として生きることは叶わない。そこで私は急遽この世界の住人としてディアナを生かそうと考えた。でも、そのためには膨大な時間が必要だったんだ。君の肉体と傷ついた精神の再生を行わなければならなかったからね。だから、私はサタン達とある約束をした。『千年後、この世に姫を産み落とす』とね。君を回復させるための千年間は順調だった。問題は君を転生させるときだった。君の転生を担当していた天使の手違いで君はこの世界ではなく、君が元居た世界...地球に転生させてしまったんだ」 なるほど....? その天使のせいで姫はこんなにも傷ついたと...。 ソファに座ることも許されない環境に置かれていた姫を想うと胸が張り裂けそうになる。 「天界と下界の時間の流れは異なっていてね。天界での一分が下界では一年なんだ。私が君の様子を天界から覗いたときにはもう全てが手遅れだった。君は....自分の手で命を絶っていた」 ひ、めが......自分で命を絶った? それは初耳だ!姫はそんなこと一言も....! 愛しい姫君は申し訳なさそうに....でも、後悔が一切感じられない瞳で前を見据えている。 姫のこんな表情....初めて見た。 「天界へ帰って来た君の御霊を転生ではなく、転移という形でこの世界に送った。そうしなければ....多分、ディアナ...君は消滅していた。それほどまでに君があの世界で受けてきた暴力や精神的ダメージは酷かったんだ。前のようにもう一度千年かけて君を回復することは困難だった。あれは傷ついた体や心を癒すものではなく、傷ついた体や心を取り除くものなんだ。心も体も傷だらけな君にそれをすれば、存在が消滅してしまう。だから、あえて転移という手段を取った」 デウスがここまで言うのは珍しい。 仮にもこいつは神だ。 不可能なことの方が少ないと言われる存在。 そんな奴がお手上げになるくらい姫の心と体は傷付いていた。 許せない....姫を傷つけた者達全員消してやりたい。 「君を別世界へ転生させた天使はもちろん、君を傷つけた者達には重い罰を下している。そこは安心してほしい。そして、本当にすまなかった。天界の長として心から謝罪申し上げる」 デウスが素直に謝罪の言葉を口にしたことにファーセリアと私は酷く驚いた。 デウスはとてつもなくプライドが高い。戦争のときだって私達は仕方なくだが、きちんと謝罪をした。にも関わらず、あいつは謝罪の言葉を一度も口にしなかったのだ。 デウスの代わりに大天使や姫が謝罪したため、なんとかその場は収まったが。 そんなプライドの塊と言っても過言ではないデウスが素直に謝るなんて信じられない。 「えっ?あ、あの....私はその...全然気にしてないので謝らないでくださいっ!私が薄汚い妾の子だから、悪いんです!神様は何も悪くないですっ。なので謝らないでください」 私達は顔を強張らせた。 姫が....悪い? そんなことある訳ない。 薄汚い妾の子?姫はずっとそうやって言われ続けてきたんですか?そんな汚い言葉を浴びせられてきたんですか? 私の中で何かがプツンッと音を立てて真っ二つに切れた。 私の中にある禍々しいものが溢れ出す。 姫を傷つけた.....愛しい愛しい我が姫君....私達の唯一無二....。 姫を傷つけた者達には制裁を....。
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