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異世界 1
目覚めたのは知らない森の中だった。
ざわざわと木々が揺れ、チュンチュンと小鳥が鳴いている。
ここはどこだろう....?
立ち上がろうとしたが、体に上手く力が入らずその場に尻餅をついてしまった。
そこであることに気がつく。
私の怪我...治ってる?それに血だらけの筈のワンピースが真っ白なままだ。
足腰にいまいち力が入らないこと以外は特に問題はない。
ここは.....天国?死後の世界?なのだろうか?
私....ちゃんと死ねたんだ。
やっと....解放された、あの地獄のような日々から。
「っ....!!」
解放された喜びに感極まってしまって、涙が次から次へと溢れ出す。
嬉し涙なんて初めてだ。
今まではずっと痛くて泣いてたか、苦しくて泣いてたか、だったから。
そのとき、ザザッと草むらが揺れた。
驚きと恐怖で涙が引っ込む。
だ、誰....?
逃げようにも足腰に上手く力が入らない。
座った状態のまま、後退りする。
「大丈夫ですよ。私は貴方の味方です。貴方のことを絶対に傷付けないと誓いましょう」
草むらから出てきたのは見た目麗しい黒髪の男性だった。
雪のように真っ白な肌に深紅の瞳。睫毛は長く、瞬きする度にふさりと揺れる。口元には人の良さそうな笑みが浮かべられていた。
執事のような服を身に纏っている男性はニコリと私を安心させように優しく笑いかけてくれる。
「だっ、誰....ですか?」
「おや、私としたことが自己紹介がまだでしたね。私は悪魔族の長(おさ)であるサタンです。以後お見知りおきを、我が愛する姫君」
あっ、あい....愛するって....!それに姫だなんて....。
いや、それよりも今この人、自分のことを悪魔って言ったような....?
じゃあ、ここは地獄なの?こんなにものどかな場所なのに?
「あ、あのここって....」
「ここは姫が居た世界とは異なる世界...とでも言っておきましょうか」
「それって....死後の世界だったり....」
「いいえ。ここは死後の世界ではありませんよ。姫も私もきちんと生きています」
え?え?でも、私死んだ筈じゃ....。
頭が混乱する。
ただ1つ言えることはここが私の居た世界ではないことだけ。
あとは....目の前に居るサタンさんが悪魔だってこと。
「姫、顔色が優れませんがどこか具合が悪いのですか?」
「ひゃっ!?」
さっきまで20メートルほど離れたところに居た筈のサタンさんがいつの間にか目の前に居た。びっくりして変な悲鳴をあげる私をサタンさんは柔らかい表情で見つめる。
「すみません。驚かせてしまいましたね」
「あぅ...い、いえ....」
サタンさんが私に向ける眼差しや言葉から優しさが滲み出ていて、少し戸惑ってしまう。
今まで私なんかに優しくしてくれる人なんて居なかった。だから、どうすれば良いのか分からなくて困ってしまう。
優しくして貰えるのが嬉しくて、お礼を言いたいのに言って良いものなのか分からない。普通とか常識とか私にはあまりないから。
チラッとサタンさんに目を向けると、彼もこちらを見ていたようでバチッと目が合ってしまった。深紅の瞳を細めて柔らかく笑うサタンさんは本当に綺麗で薄汚い私には眩しく見えた。
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