<郷に入りては、と言うけどさあ>

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 よく晴れ、日差しが眩しい早朝。宿の裏手にある物干し場で、手持ちの着替えを洗う。  井戸の水も物干し台も、愛想の良い女将から使って構わないと許可を貰った。  旅の手荷物は可能な限り、必要最低限に。そうは言うものの、何となく着ずっぱりになるのも気に掛る上に、身だしなみには気を配りたい。  そう考えると、自然と荷物の中に着替えを含め、身形を整える道具や香水の類が多くなった。  時折と『男のくせに』と揶揄(からか)われることもあったが、身だしなみを気に掛けることに男も女も関係ない。  海賊の男衆が身だしなみを気にしなさすぎるのだ。それが反対にいただけないとまで思ってしまう。  自分に従ってくれる海賊たちは、一応はオヴェリア群島連邦共和国の国守の一手――、国に仕える立場になるのだから多少は身形を気にしてほしい。  そのことから『お前たち臭い』と単刀直入に言い放った際の、大の男たちの泣きそうな顔が何とも言えなかった。寧ろ、気持ち悪かった。  まあ、それからは舎弟ともいえる海賊たちも、ヒロに倣って小綺麗な格好を心掛けるようになったので良しとしよう。  しかし、それにしても。落ち着かない――。
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