51人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ
<なにして遊ぶ?>
「さて。姫が手伝ってくれたお陰で洗濯物も終わったけど。――今日は何をしようかな?」
昨日の内に町中の散策は姫の案内の下、ある程度が済んでいる。町巡りですることといえば、旅の携帯食の買い足しをしたいくらいであったが、それでは姫が退屈だろうと思いなす。
さようなことをヒロが考えていると、姫も何をするか思案している表情を浮かべていた。
「えっとね……」
姫は姫でヒロと何をして遊びたいかなどを考えていたのだろう。はたと翡翠色の瞳でヒロを見上げ、口を開いたかと思えば――。
「ヒロお兄ちゃんの泊っているお部屋が見てみたい」
「え?」
思いも掛けない姫の提案に、紺碧色の瞳がきょとんと丸くなる。
「なんでまた……?」
「お宿のお部屋なんて見たこと無いんだもん。見たい!」
ヒロが困惑を窺わせていると、姫は両の手を拳に握り力説の如く宣言する。
姫は騎士の家柄出身――、貴族の令嬢だ。大衆宿と言える下々の宿施設に泊まったことは無いだろう。今後、一生泊まることも無いだろうし、足を踏み入れることも無いはずだ。だので、部屋を見てみたいという言い分も、姫の好奇心から思えば納得はいく。
しかしながら、それとこれとは話は別だった。高貴な生まれの者を下流の者が立ち入る場所へ連れて行くわけにもいかないし、ましてや姫は町中でも貴族の令嬢らしいと噂されている存在だ。このような場所に出入りしていたのでは、不名誉な噂が浮上しかねない。
「えー……、っと。隊商宿の部屋なんて、別に姫が見てもおもしろ――」
「見たいっ!!」
面白くもなんともないとして諭そうとしたヒロの言に重ねるように、姫は再び大きく声を張る。言葉を遮られたヒロはグッと喉を鳴らし、たじろいでしまった。
「で、でもね。姫はお嬢様なんだし――」
「見たいったら見たいのっ!!」
「あう。姫―……」
これはもう、梃子でも動いてくれないだろう。
さて、どうするか――。
最初のコメントを投稿しよう!