<お兄ちゃんの香水>

1/7
51人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

<お兄ちゃんの香水>

「ヒロお兄ちゃんって良い匂いするけど、香水の匂いなんだ」  ヒロが香水を使っていたのが意外だと言いたげに、姫は翡翠色の瞳を上げる。そうした物言いにヒロは苦笑いを表情に浮かせていた。 「姫も男のくせにとか、思っちゃう?」  ヒロの言う『男のくせに』という自嘲じみたものは、屈強な海の男たちによく揶揄(やゆ)られる言葉だった。  このような身だしなみに関わることに、男も女も関係無いというのがヒロの言い分ではあるのだが――。一般的に見れば、まだまだ物珍しい部類に入るのだろう。  だが、そうしたヒロの言葉に姫はゆるりと(こうべ)を振った。 「ううん。大人だなーって、思っただけ」  にっこりと笑みを見せて姫は言う。その返弁にヒロの紺碧色の瞳が瞬いた。 「私ね。香水はまだ早いって言われているの。もっと大人になってから、だって」 「あー……、そういうことか」  言われてみて納得した。確かに香水を子供が使うのは早いだろう。そして、その言いつけを心に留め、大人びて背伸びもせずに守っている姫を微笑ましく思う。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!