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<あんまり見ないで!>
水仕事をするからと、普段身に付けている黒い革手袋を外し、左手には包帯を巻き付けている。そのため、左手の甲に火傷のような赤黒い痣となって刻まれる“海神の烙印”が気付かれることは無い。
だが、包帯の下の“呪いの烙印”すら見透かしてしまうのではと思うほど、ヒロの手元を翡翠色の瞳は凝視していた。
「……姫。洗濯をしているところを見ていて面白い?」
微かに苦笑いを表情に帯び、ヒロは居たたまれなさを覚えて聞いてみる。そんな問い掛けに、姫と呼ばれた亜麻色の長い髪に翡翠色の瞳をした幼い少女は頷いた。
「ん。おもしろい」
ヒロの顔を見ることもせず、水に濡れて泡塗れになっている彼の手元だけを直視し、姫は答える。そうした受け答えに、ヒロの表情が困惑の色を宿していった。
桶に水を張って、衣服を揉み洗いする様の何処が面白いのだろうかと。子供と大人の感性が違うことを実感する。
そう思慮した途端、不意と溜息まで漏れ出した。
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