はじめ、のはなし

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数年後には取り壊すから、という理由で 好き勝手しても構わないと言われ 元々白かった壁は真っ青に塗り替えたし あちこちにキャンパスを打ち付けた。 元々なかったダクトレールも取り付けたし 部屋の角はわざと開けた穴もある。 その穴の下に、持っていた画板を立てかけて 作業台にカバンを置き、腰をかけてつぶやいた。 「ここには何も無い。だけど、なんでもある」 柱に書かれた、消えかけの文字。 誰が書いたのかもわからない いつからあったのかも分からない。 だけど、なぜか気になってしまう言葉だった。 あの人が言いそうな、好きそうな、 とは思いつつも自分では口に出さなそうな、 曖昧でわかりづらい、そんな響きだ。 そんなあの人の話を少ししようと思う。
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