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 翌朝、僕は部活勧誘ポスターが貼られた掲示板の前にいた。  たった一人の友人にあそこまで言われてしまったら、男として応えない訳にはいかない。  と、思い来てはみたのの。  物凄く前向きにやって来たかと言われれればそうでもないので、かれこれ数分経った今も目ぼしいものは見つかっていない。  運動部はまず除外するとして、オカルト研みたいな変なのも論外。  文系で、人数が多すぎず少なすぎず、素人でも邪魔にならなそうなもの――。  消去法で消していくと、何も残らない気がしてきた。  だったらこの中で気になるとしたら…家庭科部?  あれ?でもこっちに料理研究部もある。  何が違うんだろ?  わからないからやめよう。 「ゆーずーくんっ♪」  真剣に吟味していたら、聞いたことのある声に呼ばれた。  ニコニコと近寄ってくるのは、ぽや…じゃなくて、副会長さんだ。 「おはよう~」  相変わらずぽややんとした話し方だ。  昨日の“話さなくていい”はまだ有効だろうか。  とりあえず、先輩に挨拶されたのに無視するわけにもいかないのでペコリと頭をさげてみる。 「うん、おはよう~」  僕のペコリが伝わったのか律儀に挨拶を返してくれる。  よし、ちゃんと挨拶カウントされたみたいだしさっさと退散しよう。 「何見てたの~? 部活入るの~?」  踵を返す寸前に再び話しかけられ、さっさと逃げたい気持ちと先輩の質問に答えなければ、という気持ちがせめぎあう。  おまけに部活勧誘のポスターを見てたのはあっているけど、部活に入ると決めたわけではない。  前にも後ろにも進めず、縦にも横にも首を振れない状態、正に八方塞がりだ。 「あ~、悩み中なのか~。 そっかそっか~」  あれ、何か伝わってる。  だが、逆に逃げられるような雰囲気ではなくなってしまった。  何かいいのあった?  やってみたいことはあるの?  運動部と文化部とどっちで探してるの?  と言葉を返さない僕に矢継ぎ早に質問し、どんどん答えを引き出していく。  なんで返事をしてないのに分かるんだろうか。 「あっ! じゃあさ~、俺のところに来てみる~?」  何か部活をやっているのだろうか。 「ゆずくんは~、やってみたい部活はないんでしょ~?」  うん、ない。 「運動部は嫌で~、何にするかも決めかねてるんでしょ~?」  うん、これも正解。 「それに~、人がいっぱいいるような所は嫌でしょ~?」  そう、だけど…。 「そもそも~、本当は部活なんかやりたくないとみた~♪」  ――名探偵の方ですか?  さっきまで僕が考えていたことをほとんど当てられ、面食らってしまう。  一言も言葉を発していない僕から答えを導き出すなんて、物言わぬ死体から犯人を割り出す名探偵さながらの推理力だ。  そうか、ぽややん先輩は探偵倶楽部なんだな。 「あ、俺は部活には入ってないよ~」  どうやら僕には名探偵の血は流れていないらしい。  では、ぽややん先輩のところ、とはどこの事だろうか。 「俺ね~、生徒会に入ってるんだよ~。 副会長なんだ~」  そういえば昨日、瑛士がそんなことを言っていたな。 「だからね~、ゆずくんもそこに来たらいいよ~」  うん? 何が“だから”なんだろう?? 「だからね~? ゆずくんは何かしたいんでしょ~?」  厳密には、しなきゃいけないに近いけどあってるかな。 「でも、部活はやりたくないんでしょ~?」  まあ、正直に言えばそうかな。 「だったら~、生徒会なら部活じゃないしピッタリじゃ~ん♪」  とんでもない三段論法があったものだ。  ぽややん先輩は頭の中までぽややんなんでしょうか。 「あっ、今俺のことバカにしなかった~?」  言葉はもちろん発してないし、今は微動だにしなかった。  おまけに僕の顔は前髪で半分見えないはずなのに、何でわかるんだろう。  本当に名探偵の血筋なんだろうか。  考えてることが丸分かりなんてちょっと怖い。 「あっ。 ちょっとちょっと~。 何で逃げちゃうの~」  思わず後退した分と同じだけ前進される。 「とりあえず~、お友達も一緒でいいから一度遊びにおいで~」  生徒会の仕事とか難しいことは考えなくていいから気軽に遊びにおいで、と熱心に誘ってくれる。  生徒会がどんなものなのかも知らないし、生徒会役員になるなんて論外もいいところだけど、少人数で未経験者歓迎、瑛士同伴での見学もOKだなんて破格の条件だ。  正直これ以上の条件で他のところを探すのも面倒だし、見学くらいならいいか、と考えが打算的な方向に傾いていく。  結局断る理由を見つけられなかった僕は「待ってるね~」のだめ押しの一言に思わず頷いてしまった。 「そうだ~。 俺の名前は一瀬煌來(いちのせこうき)といいます~。 よろしくね~♪」  そう名乗られ、ぽややん先輩は一瀬先輩になった。
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