14 ───Side 煌來───

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14 ───Side 煌來───

 目が合った瞬間、身体中の血液が沸騰するかと思った。  そこに行ったのは偶然で、天気も良いしたまには外で日向ぼっこでもしながらごはんを食べるのもいいかなって。  そのまま午後の授業が始まるまで、悪友に面倒な仕事を押し付けられずにお昼寝でもできたら最高だなって思ってたんだ。  屋上には前にも一度行ったことがあって、その時は先客がいて楽しそうにお弁当を食べてたから遠慮してそっと戻ってきたんだっけ。  あのとき居たのは青いネクタイをした人達だったから、今年は卒業してもう居ない。  絶好のロケーションの割に人気がないのは、風が吹いたり日に当たるのを好ましく思わない現代っ子が多いからだろう。  だから今日こそ屋上を独り占めして、のんびりできるかなって期待して上がってきた。  扉を開けるとガランとしたコンクリートの床と真っ青な空。  思った通り誰も居ない。  ――この裏側なら誰か来ても見つからないかな。  入ってきた扉の死角になる位置に日当たりの良いスペースがあったはず、と時計回りに屋上を廻る。  この間、新入生歓迎会をやったと思ったら今度は校外のボランティア活動だっけ?  それ以外にも、各委員会との会議に部活動の予算決議?  小テストもちょこちょこあるし、しばらく気が抜けないなぁ…。 「あれ? 人が居る…」  誰も居ないつもりで歩いてきた先にまたしても青いネクタイの先客がいた。  思わず出た声に、そこに居た先客は驚いたように振り返った。  あ、いい風――…。  ふわりと吹いた風に煽られて目の前にいた彼の前髪がはためく。  大きな焦げ茶色の瞳を見開いて、驚くというより怯えているように見えた。  ――護ってあげたい、そう思った。  目が合ったのはほんの一瞬で、彼は見られてはいけないものを見られてしまった、というようにはためいた髪を抑えて固まっている。  明らかに動揺しているのが分かるのに、ただ目が合っただけでどうしてここまで怯えているのかまでは分からない。  どうしようか考えあぐねていると足元に彼のものであろうお箸が転がっているのに気付いた。 「大丈夫? そんなに驚かせちゃった?」  そっと差し出してみると、声を掛けた瞬間ビクッと肩が跳ねた。  人見知り、ではないよな?  俺、そんなに怖い?  自分で言うのもなんだけど、強面というよりは「どっかの王子様みたい」って言われるタイプなんだけどな…。 「ごめんね? そんなに驚くと思ってなかったから」  極力やさしく声を出して声をかけると、一生懸命口を開こうとしてるのが見えた。  これは、俺が怖いというより人と接すること自体が怖いのかな…。  ヴ───ヴ───ヴ───…  どうしたものかと思案していると、微かにバイブ音が聞こえた。  彼も気付いたのか、辿々しい動きでポケットを探っている。 「――えい…し…ッ… … …」  ズキッ、とした。  悲痛な声で、明らかに助けを求めるように名を呼んだ。  その声になのか、あるいはその声を出させてしまったことになのか、それとも違う理由なのか――心が痛む。  黙ってしまった彼に、電話の向こう側が慌てているのが聞こえてくる。  前髪に隠されて見えなくなった瞳が、泣いているような気がして、思わず手をのばしていた。 「電話、貸してもらってもいい~?」  できるだけ脅かさないようにそっとスマホを抜き取り、彼の目の前にかざす。 「場所、伝えたいんでしょう~? 代わりに言ってあげるから」  電話の相手はクラスメイトみたいだった。  親しげに、心配そうに呼ぶのを聞いて、彼の名が“ゆず”であることを知った。  すぐに来ると言っていたけど、このまま置いていってしまうわけにもいかないし、かといって怯えたままの状態なのも可哀想だ。  少しでも気が紛れればいいかと、ひたすら語り掛けた。  できるだ怖がらせないように、優しい言葉遣いで。  くだらないことばっかり話してたけど、お迎えが来るころには少し力も抜けたみたいだった。 「じゃあ、またね。 ゆずくん」  あ、話し方戻っちゃった。  丁寧にお礼を言われて屋上を出てきたけど、また今年も屋上は使えないかなぁ。  零れ落ちそうな位大きな瞳。  キャラメルみたいな色をした髪は風になびいてふわふわして美味しそうだった。  全然傷んだところがなかったし、あの色もふわふわも天然モノなんだろう。  怯えた表情をしてたけど、笑ったら絶対に可愛い――…って、男の子だったな。  うん、でも。  また会えたら、お話くらいできたら嬉しいなぁ、なんてね。
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