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17
~名探偵ぽややんの事件簿~
お茶汲みレディを卒業した僕が就職したのは、探偵事務所でした。
15:55 依頼人A登場
「失礼します。 生徒会って…ここであってますか?」
「あってますよ~。 どうぞお入りくださ~い」
青いネクタイをした男子生徒は、僕と同じか少し小さい位の身長で、華奢な腕に真新しい学生鞄を抱えておずおずと入ってきた。
彼が歩く度、鞄に付いたキーホルダーの小さな鈴がチリンチリンと音を奏でている。
依頼人の彼をソファーに促した先輩に「お茶を淹れてくれる?」と頼まれたのでもう一度お湯を沸かす。
探偵事務所でも結局やることは変わらないようだ。
「あのっ…。 なくしてしまったものを、ここで探してくれるって…聞いたんです、けど…」
「そうですね~、探すお手伝いはさせていただいてますよ~」
意を決したように話し出した内容は遺失物の捜索依頼だった。
探偵事務所、元い生徒会ではそんなこともしているのか。
探す手伝いはするけど見つかるかどうかまで約束してないところが上手いな、と妙な感心をしてしまう。
「手帳…生徒手帳を、なくしてしまったんです…。 それであのっ――」
意気込んでいた割に、探し物は誰もが持つ生徒手帳らしい。
校則で禁止されている物を持ち込んでいたわけでもなさそうなのに、何をそんなに言いにくそうにしているのだろう。
無くしたら罰則、とかあったっけ?
プリンスを前にして緊張してるのかも、と勝手に結論付けて新しく淹れたお茶を目の前に出したらペコリと会釈された。
僕もつられてペコリ。
「生徒手帳ですか~。 一番前に名前も顔写真も載ってるページがあるからすぐにわかりそうですね~。 見付かったら、そこだけ、確認してお届けするってことでいいですか~?」
「あっ! はいっ!! あっ、あのっ…よろしく、お願いします」
一瀬先輩の返答に安堵と感激の表情を浮かべた彼は勢いよく頭を下げ、やっと僕の淹れたお茶に手を伸ばした。
「――美味しい」
「ふふっ。 でしょ~」
何で先輩が自慢気なんですか。
「はい」と控えめに返事をした彼は、最後まで美味しそうに飲みきった後、僕にお礼を言いながら退室していった。
「ご馳走さま、高梨くん」
16:23 依頼人B登場
「水嶋会長はいるか?」
生徒会用のパソコンの使い方を教わっていたら、またしても来客があった。
案外、生徒会室は賑わっているようだ。
生徒会室に来た生徒の要件はパソコンに入力して管理しているらしく、さっそく遺失物の相談内容を記録に残す。
パスワードを教えてもらってログインし、専用のフォーマットに少しずつ入力していく作業は、少し大人になったみたいで何となくわくわくする。
「会長は外回り中ですよ~。 私用ですか~?」
「続けてて」と言い置いて、先輩が入口へ向かっていく。
さっきの依頼人さんにはお茶まで出してもてなす好待遇だったのに今度はいいのかな…。
「いや、新聞部の追加予算の相談がしたかったんだが…」
赤いネクタイのお客様は、どうやら新聞部さんらしい。
残念ながら留守なんですよね~、と返す様子をみる限り、やはり中に招き入れるつもりはないようだ。
「先輩、先週の“突撃!トイレの花子さん独占インタビュー!”とっても面白かったですよ~」
「あ…あぁ、ありがとう」
トイレの花子さん?
彼の有名なトイレに指定席を持つあの彼女?
おかっぱ頭に赤いスカートの?
「でも、先輩。 あんまりゴシップ方面に特化し過ぎると、会長から予算もらえなくなっちゃいますよ~?」
内容、ゴシップなんだ…。
ちょっと気になる。
「あ、あぁ。 ご忠告痛み入るよ」
「とんでもないです~。 良い新聞できたら読ませてくださいね~」
ニッコリ、としか形容できない笑顔で対応しているのに「良いのができたら出直してこい」と言ってるようにしか聞こえない。
「ひ、日を改めることにするよ」
「は~い。 またお待ちしてますね~」
ヒラヒラと手を振る先輩に見送られ、新聞部さんご退室。
あ、結局中に入れてもらえなかったから退室ではないか。
「一瀬先輩?」
「はぁい?」
「――いえ。 何でもない、です」
一瀬先輩、ただのぽややんじゃなかったんですね。
とは流石に言えなかった。
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