CASE⑦ 君に、溺れる

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CASE⑦ 君に、溺れる

 白く煙る視界──その先で薄桃色に染まる肢体が頼りなく揺れる。  若く張りのある白い肌──すっと通った背筋はなだらかな線を描き、そこを辿るようにひと粒、ふた粒と水滴が滑り、縁いっぱいまで溜めた湯船に落ちては波紋となって広がった。  浴室に反響する息遣いが、お互いの劣情をよりいっそう煽るように、耳殻を巡り鼓膜の奥深くへと届き、頚椎の浮き出た項に唇を寄せきつく吸い上げると、俯き加減だった顔がびくりと跳ね上がって、華奢な身体が震えた。  はくりと空気を食んだ月冴の唇はすぐさま固く引き結ばれ、自らの声を殺しにかかる。そんな姿がいじらしくて、今度は濡れそぼった耳朶に舌を這わせた。吐息に混ぜて声を要求すれば、弱々しく首を振って拒否をする。どうあっても己の嬌声を聞かせるつもりはないらしい。  限られた広さの浴槽に二人で収まり、背後から覆うようにして沿わせた身体──ぴたりと密着させた下肢から伝う熱に、もどかしさを感じるのか月冴の細腰が揺れ動く。僅かに開かれた内腿の間をゆるゆると往き来する〝それ〟は、俺の欲望の象徴だ。  卑猥な水音を立てながら、彼が受け入れることを望む場所のすぐそばを焦らすように掠めていく。  ひどいことをしている自覚はあった。  けれども、いまこの場で目の前の熱く熟れた肉襞を自らの昂りで押し開き、すべてを綯い交ぜにするような行為をする気にはどうしてもなれなかった。  シーツの海に散る金糸雀色の髪と、熱に浮かされ揺蕩う瑠璃色の瞳──一度目に焼きついた情景は鮮明に蘇り、俺を惑わせる。 「そんなに、嫌?」 「ッ、え……?」 「俺に声聞かれるの」 「嫌って、いうか……」 「せっかく、ふたりきりなのに」  恥ずかしがるのが可愛らしいと囁やけば、ぞくぞくと粟立つようにして月冴の身体が震え上がる。しなやかに反り伸びる背筋に、悪戯に舌を這わせれば、存外甘い嬌声が漏れた。  まんざらでもないのか──そう思えば、湧き立つ感情を抑えることも難しい。心の奥底からこみ上げる彼への愛おしさが、僅かに開いた口から溢れ出る。
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