CASE⑦ 君に、溺れる

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「……と」 「…………ぁ」 「大丈夫?」 「…………」  のそりと上体を起こす。  ベッドの上──傍らでぺたりと座り込んでいた月冴が俺の顔を覗き込んだ。  こつりと額を合わせると、平時と変わらないくらいの体温だと認識したのか、ゆっくりと瞼を伏せる。 「よかった、もう平気そうだね」 「……俺、逆上せたのか?」 「うん。のぼせて、お風呂の中でひっくり返った。ぐったりしちゃって、お風呂から出すの大変だった」 「……ぁー……」 「尚斗?」 「すげぇ、かっこ悪い、俺。……結局月冴に迷惑かけて面倒見させて」 「迷惑ってほどでもないけど……尚斗の面倒見るのは、もう慣れたよ」 「ほんと、ゴメン」  焦らして引き伸ばした挙句、自らが醜態を晒して介抱されるなど、無様にもほどがある。月冴には幾度となく格好つかないところを見せてきてしまっているが、本当に立つ瀬がない。 「動けそう?」 「あぁ。時間も時間だし帰らねぇと」  上掛けを捲ると、Tシャツと下着は身につけている状態だった。苦労しながらも月冴が着せてくれたのだろう。本当に頭が上がらない。  身支度を終え、部屋にある精算機で会計を済ませる。月冴に「俺も半分出すよ」と言われたが、どうにか説き伏せて断った。  ホテルを出て駅方面へと向かう。終電までは、あと三十分ほどしか無い。    重ね合わせた掌、自然と絡み合わせた指先──名残惜しげに彼の手甲を人差し指で辿れば、はにかんだような笑みを浮かべて俺の方を見てくる。 「今度は……最後までしようね?」  ふいに耳元に寄せられた、彼の口から告げられる甘い言葉(ささやき)に、鼓動が大きく跳ねあがる。 ──次からもう、風呂場ではしねぇ。  些細な決意を心の中で固めてから、俺は素直に頷き返したのだった。
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