CASE⑧ 姫乃井尚斗がカップ焼きそばを作るとこうなる

1/1

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ

CASE⑧ 姫乃井尚斗がカップ焼きそばを作るとこうなる

「湯切り三分……かやくは先、ソースはあと……」  ぶつくさと独り言のように説明を読みながら紙製の蓋を指先でつまみ上げて捲ると、ぺりぺりと乾いた音がする。  顔を覗かせたのは器の中一面に敷き詰められた乳白色の麺。  その上に乗っている二つの小袋を取り出し、ひらがなで【かやく】と書いてある方を破いて麺の上へと散らかすようにかけてから、ケトルで沸かしたお湯をゆっくりと注ぎ込んだ。  多すぎてもダメ、少なすぎてもダメ──ちょうどいい塩梅は内側の線まで。  きっちり注いで捲れ上がっていた蓋をする。  器のへりに引っ掛けるようにして止めて、ソースの袋をその上に乗せてからキッチンタイマーを三分にセットしスタートボタンを押した。  待っている間、退屈凌ぎに読みさしの小説を開く。  ほんのいちページ、読み終えるか終えないかのところで『ピピピッ』と鳴る電子音。アラームを止めてから湯切り口のシールを剥がし、四角いカップの端と端をしっかり両手で掴んで、湯切りする。  緩やかな曲線を描いて放流されたお湯がもうもうと湯けむりを上げ、視界を曇らせた。  勢いよくならないように手早く振って湯切りを終え、テーブルの上で紙蓋を一気に捲ると、ほどよくふやけた乳白色の麺としっとりと湯戻りしたかやくが出迎えてくれる。そこへソースを回しかけ割り箸でしっかりと絡ませれば出来上がりだ。 「ひょっとして、初めてじゃねぇかな、カップなんちゃらまともに作れたの。……だからどうしたって言われるかもしんねぇけど写メって月冴に送っておこうか……」  いそいそとスマホを取り出して写真を撮る。これで用が済んだ、あとはしっかり完食するだけだ。 ──それが一番、俺にとっては曲者なのだけれど。 「──いただきます」  すっかり習慣と化した〝食事の前にはいただきます〟をひとり呟いて手を合わせ、尚斗は目の前のカップ焼きそばに、ようやく箸をつけた。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加