CASE⑨ 理不尽

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「龍之介」  耳に落ちる()が、響く。手首を捕まれ強引に引き寄せられて、バランスを崩したところで顎を掴まれ、上を向かされる。 「~~~ッ、──……!」  狡いよ……なにもこんな時に名前で呼ぶこと無いのに。  真っ直ぐ見つめてくる瞳と視線が交わって身動きが取れなくなった。  しっかりと重ねられた唇。  触れるだけ、なんて可愛らしいもんじゃなくて、ガサツで荒々しく、貪るように舌を強引に捩じ込んでくる。口の中を無遠慮に蹂躙されて、膝が嗤った。  四楓院先生、いつもこんなキスされてるのか──そんなことを思ったら、身体の奥から恥ずかしさがこみ上げて全身がカッと熱くなった。 「ッ、ンン、──……ッん、ぁ、は……」  ヒヤリとした感覚が背中に伝わって、壁に押し付けられたんだって頭の中で理解する。差し込まれたままの朔の膝頭が、ぐっ、と悪戯にオレの弱いところを押し上げて変な声が漏れた。  勘弁してよー……そういう指示はなかったでしょー……。恥ずかしくて死にそう。だんだん力が抜けてきて、なにかに縋ってないと立ってられそうになくって、オレは朔のシャツの裾をギュッと掴んだ。  ギリギリと生地を巻き沿えにしながら指先を掌の方へ握り絞める。  あー……つまめないかもだけど、朔の腹肉も一緒に掴んでやればよかった。そのくらいしたって怒られないよね。  カシャン──朔の背後で錠の外れる音がして。そうなってようやく朔がオレから口を離した。 「ッ、は……」 「ひでぇ顔だな」 「……誰のせいだよ」 「気持ちよかったのか?」 「……バカじゃないの?」  そんなワケないじゃん──精一杯の虚勢を張ってから、崩れかけた姿勢をどうにか正した。ゆっくり深呼吸を一回。そんなオレを朔は一瞥する。  いつもとなにも変わらない、彼の姿で。 「出るぞ」 「……あとで四楓院先生に言いつけてやるから」  最中(さなか)に考えていた恨み言をひとつだけ朔の胸に投げつけて、オレはもう一度その逞しい胸板を、トン、と叩いた。
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