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CASE① 欠点があるとするなら
「朔ってもしかしなくても独占欲強い方?」
昼休み──珍しく学食で昼食を摂っていたときのことだ。
突拍子もなく、まるで息をする延長のようにそう告げてきたのは、同席していた親友の(いつの間にかそういう間柄になっていた)志賀龍之介だった。
「……んだよ、やぶからぼうに」
言葉の意図を汲み取りきれずに睥睨しながら彼を見ると、龍之介はにこやかな笑みを絶やすことなく「いやね」と言葉を切った。
出会って半年──人を揶揄うような態度にようやく慣れたと思ったが、どうやらそれは自分の勘違いだったらしい。
コイツのこういう反応は、ごく稀に──無性に癪に触る時がある。
あえて伝えることはしない。伝えたところで龍之介が態度を改めるわけではないからだ。
「今日、四楓院先生が市の養護教諭会に出るからって朝イチでお弁当貰ってたじゃない? その時にちょっと距離が近かったなぁと思って」
「……言いたいことがあんならハッキリ言えよ」
手元に置かれた弁当箱から綺麗に飾り切りされたウィンナーを一つ、箸で摘み上げて口へ運びながらなおも目の前で笑顔を絶やさずにいる龍之介を睨みつけると、彼の口角が緩やかに持ち上がった。口にすることを今か今かと待ちわびるようなワクワクとした様子で嬉々とした声を発する。
「つけてたでしょ? キスマーク」
顔を寄せ、周囲には聞こえないくらい声量を下げて告げてくる。秘密裏に囁くような声に、逆に羞恥心を煽られた。
「──ッ! …………見て……?!」
思わず上半身を引いて近すぎる龍之介との距離を取ると、龍之介がやんわりと笑う。
「行為そのものを見たって言うより二人の雰囲気? っていうか。朔って空気に出るんだよね、四楓院先生より優位に立ったときは特に。気づいてないの?」
呆れた、と言わんばかりに目をぱちぱちと瞬かせる龍之介を前に、自分も瞬きを一度する。
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