優柔不断の憂鬱

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「寒いだけだな」  男はベランダから臨む一夜限りの銀世界に対し、心底面白くなさそうに呟いた。  冬風が吹きすさむ土地に雪は積もらない。しかし今は連日の冷え込みにより、滅多に積もらない雪が夜になっても残っていた。  暖房費を節約するために着込んだ分厚いコートもマイナス七度の世界には耐えられなかったようで、ゴウゴウと無機質なエアコンの室外機の音が木霊している。  男は凍てつく夜空の下、ぼんやりと青白い月を眺めていた。  いくらかは温かみを感じられはするものの、血は通っていないその色。  月は無情にも夜を照らし、繁華街の痴態を見守っている。  指先が冷えてきたところで男はコートの左ポケットからタバコとライターを取り出し、火をつけた。灰がふわりと風に乗り霧雪と共に宙を舞う。白と黒の混ざった灰は雪にまぎれ雑踏の中へ流されていく。本物も偽物も踏み固められてしまえば何者でもなくなる。 「……やっぱり、別れるべきか」  タバコを挟んだ指先が震え、それに合わせて歯がぶつかってカタカタと音を鳴らす。口の中には苦みと、乾燥して切れた唇の血の味がしばらく残っていた。
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