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階段を登りながら、相変わらず震えの止まらない状態の両手で、もらったカイロをぎゅっと握り締める。
「……あったかい……」
ふと呟いた言葉が、前を歩くカレの耳に届いたようだ。
「……寒いんならコレが一番かなって。……今、見たら、君の手、まだ震えてたから。さっき、門のとこで手が震えてる理由は『寒いからかも』って言ってたし。……使用中のモノで悪いけど、その方が既に温かくなってるから即効性があるかと思って。……今から試験で、かなりの量の文字を書かなきゃいけないのに、その状態の手じゃ、かなり大変そうだと思ったから……」
「……え?でも、あなたのは?」
3階まで階段を上りきったカレは私の方へと振り返り、溜息混じりに言った。
「……予備あるし、今、特に寒くもないし。震えてもいない俺の心配は要らない」
「……」
(自分の心配したら?他人のこと心配してる場合じゃないでしょ)
そう言われている気がした。
と同時に、『……俺が泣かしたって思いたくないんだけど』と言っていたカレの台詞を思い出す。
(……あ、そっか……。何でこんなことしはるんか不思議やったけど、私が泣いてしまったから、このヒト、責任感じはったんや……。態々、受験票を届けてくれはったっていうのに、そんな思いせんといかんなんて、ほんま、とばっちりもええとこやん……。こんな間抜けな私とかかわったばっかりに、色々と申し訳ないことを……)
落ち着きを払った態度で論理的に理由を説明するカレに対し、見ず知らずの私の事を心配させてしまったことを本当に心苦しく感じた私は、御礼なのか謝罪なのか、何だかよく分からない言葉を言う。
「……えっと……、あの、その……どうもすいませんでした……。なんかパニックになってたみたいで、色々と貴方にまで余計な気ぃ遣わせてしまったみたいで……。ほんま申し訳無かったです……。その……、あ、ありがとうございました……。……あの……、でも、ほんま、大丈夫になりましたんで……」
ぺこり、と挨拶して、そのまま階段を上って、急いでカレの前から立ち去ろうとした。
「……え?……ちょっ、……待っ――――」
驚いたように、そう言ったカレは私の手首をパシっと掴む。
「……」
「……」
そして、眉を顰めたカレは言った。
「……あのさ……、コレ……全然大丈夫じゃない。……違う?」
「……」
カレから温かいカイロを貰っても、尚、私の手は先程から何一つ改善していなかった。
未だにカタカタと震えたままだ。
手首を掴まれた時に、私の手首に触れたカレに気付かれてしまった。
「……あのさ……。俺、……キミのこと、本気で迷惑だなんて全然思ってないし。勘違いしないで欲しいんだけど。……俺の言葉や態度がキミを萎縮させてしまったのなら謝るから。それよりも……」
周囲をぐるっと見廻して、ふぅと溜息を吐いたカレは、掴んでいた私の手首をグイッと引いて歩き出した。
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