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名前も知らない。
出身高校も出身地域すら分からない……。
多分、二度と会うことも叶わない――――。
(……ほんまに?ほんまに?ほんまに叶わへんの?)
カレから貰った『ラムネ』のケースを握り締め、自分の座席を探しつつ、私は自問自答する。
(受験票のことだけやなくて、色々お礼言いたくても、ほんまに二度とカレには会われへんの……?)
「……」
そんなことはない、……筈だ。
(……試験の合間の休憩時間、利用して探してみる?)
私は即座に頭を振る。
私がカレの受験番号を知ってさえいれば、どうにかなったかもしれないが、6階建ての建物かつ、各階に沢山教室があり、受験生も沢山いる中、カレ1人を探し出すのは、正直、無謀としか言いようが無かった。
(……それに、折角、手の震えも止まったことやし、今は兎に角試験に集中しぃひんと――――)
カレが私の為にしてくれた行為を無駄にはしたくなかったし、カレ自身の集中力を乱す行為も避けたかった。
(……じゃあ、あのヒトに、もう一度会う方法はほんまに無いん?)
そこまで考えて私は気付く。
(……あのヒト、制服着てたから現役やし。現役やったら同い年やし。ここの大学の受験生なのは間違いない上に志望学部は絶対ココやし!賢そうな人やったから、何があっても絶対カレは受かるっ!!)
――――ということは……。
(あのヒトと同じ大学に通えるように、私も何があっても絶対受かるっ!!ココに受かれへんかったら、私、京都にある大学、他に受けてへんし。京都に偶にしか来られへんようなるもんっ!!!)
同じ大学・学部に通えれば、少なくとも大学4年間の時間がある。
4年間も同じ学部に通えば、いつかは又、あのカレと出逢える気がした。
断固として決意した私は、自分の座席まで行く。
そして、彼が軽く息を切らしながら届けてくれた受験票をそっと机の上に置いた。
コートを脱いで席に座り、目を閉じ一度深呼吸をして、目を覚ますかのように自分の顔を両手で勢いよくパンッと叩く。
そして、受験票と共に机の上に置いたカレから貰った『ラムネ』の封を開け、一つ口に含んだ。
ラムネの仄かに甘くて酸味のある懐かしい味が、口の中全体にしゅわしゅわと広がっていく。
残りの『ラムネ』は、ケース毎、鞄の小さなポケットに大切にそっとしまっていると、試験教官や試験監督のアルバイトの学生達が続々と教室へと入ってきた。
受験票を『落とし』たからこそ、私はあのカレに会えたのだ。
(……あんなに、あんなに優しいヒトに出逢えた私は【めっちゃツイてる】に決まってるやんっ!!)
カレが最後に私に言った『――――じゃ、頑張って』という言葉が、脳内でリフレインした。
(ここで頑張らんで、いつ頑張るって言うん!?――――絶対、絶対、何があっても合格するっ!)
私は再度心の中で誓って、腕時計を外して机の上に置いた。
口の中に少しだけ残っていた『ラムネ』を舌で転がしていると、しゅわしゅわっと溶けていき、甘酸っぱい味が口内全体に広がっていった。
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