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なけなしの気力を振り絞り、私はグッと下唇を噛み締める。
(……今、泣いてる場合ちゃうしっ!とにかく、出来ること考えへんとっ!!)
探しに行くことは出来なさそうなので、取り敢えず、今、この場所で受験票を紛失したり忘れたりした場合、どうしたら良いのかネットで検索することにした。
手袋を外し、動揺のあまりカタカタと震えた状態の手で、スマホで必死にネット検索しようと奮闘していると、突然、頭上から声が降ってきた。
「……コレ、君の?」
すっとスマホの上に差し出されたモノを見る。
そこには、踏まれたのか少しだけ端が汚れてはいたが、薄いレモンイエロー色をした私の顔写真付きの受験票があった。
不幸中の幸いだろうか。
顔写真部分や受験番号部分が踏まれたり、溶けた雪ーーつまり水ーーに濡れて悲惨な状態にはなってはいなかったのだ。
感極まって声が出せずに、コクリコクリと頷く。
(……感極まってへんで、先にこの届けてくれはった人にお礼言わなあかんやんっ!)
バッと顔を上げると、そこには少しだけ息を切らし白い息を吐く、黒いコートを羽織った制服姿の男子高校生と思われる人物が、牡丹雪が舞う中、傘を差して立っていた。
「……良かった」
届けてくれたヒトは、ほっと息を吐き、安堵したかのようにそう言った。
まるで私の心の代弁なような台詞に驚き、カレの顔を食い入るように見てしまう。
「君と同じ門から入れて。さっき声が聞こえた方に来たつもりだったけど、途中で曲がって他の門から大学構内に入ってたら、どうしようかなって思ってた。誰かに預けても、君の手元に直ぐに戻るとも限らないし、直ぐに戻らなかったら流石にコレはマズイと思ったから。だから、良かった。本人に直接渡せて」
「……あ、あり、……ありがとうございました……」
(このヒト、メッチャ親切な人やわ……)
感激しつつ、漸く声に出して御礼を言った瞬間に、今まで張りつめていた不安や緊張感、焦りから解放されたのだろうか。
気付けば、涙がツツっと頬を伝っていた。
受験票をわざわざ人混みをかき分けて届けてくれたカレの切れ長の目が、驚いたように見開いていく。
「……あのさ。泣かないでよ。……俺が泣かしたって思いたくないんだけど」
「ご、ごめんなさいっ!」
私は慌てて頭を下げた。
「……兎に角、コレ早く受け取って」
「は、はい」
私はカレに言われた通りに手を伸ばして受け取ろうとした。
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