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その時、意図せずカレの手に触れてしまった。
「……もしかして、君、……震えてる?」
心配そうに訊ねるカレの優しげな声が胸に沁みたせいだろうか。
それとも、泣くのを必死に我慢しようとしたせいだろうか。
気付けば俯いたまま、捲し立てるように目の前に居るカレに向かって必死に話し掛けている自分が居た。
「……じゅ、受験票、仮でもなんでもええから再発行してもらわれへんかったら、どないしたらええんやろ……とか、そもそも何処へ行ったら手続きしてもらえるんやろ……とか、スマホで検索しようとしても震えて上手く文字入力出来ひんし……」
私はカレから受験票を受け取り、手の震えが止まるように、自分の手をもう片方の掌で、ぎゅっと包み込むように押さえつける。
(こんなこと話したかって、このヒトには全く関係あらへんし、どうでもええことやのに……)
半泣きになりながら、自分でも何故、今、カレにこんなことを話しているのかよく分からなかった。
目の前のカレにとってみれば、私は、運悪く受験前に関わってしまった、ただただ迷惑極まりない人物に違いない。
頭の片隅でそう理解はしていても、涙声のまま、私は必死にカレに訴え掛けるように話し続ける。
「じゅ、受験出来ひんかったら、どないしたらええんやろう……とか、そんなこと考えてたら震えが止まらへんようになって……。門のとこで、動かずにじっと立ってたから、寒さのせいもあるのかもしれへんけど……」
見ず知らずのカレに対して、相手の迷惑も顧みず、こんなにも必死になって、息継ぐ間もないほど話すなんて、どう考えても明らかに変だ。
受験票が無事、自分の手元に戻ってきても、私の気は動転したままだった。
「……あのさ、そろそろ中に入らないくても良いの?」
今まで何も言わず、静かに私の話を聞いていたカレが告げた。
「――――え?」
俯いていた顔を上げる。
「君も受けるんじゃないの?……ここの大学」
そう言うなり、カレは門を潜り大学構内へと入っていく。
「う、受けますっ!」
今度こそは落とさないように受験票をしっかりと鞄の中にある別ポケットの中に入れて、私も慌てて構内へと入ったのだった。
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