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(……このヒト、同じ方向なの?)
今日は多くの学部が一斉に受験日の為、受験会場は各学部により建物が違っている。
あれだけ居た受験生達も大学構内に入ると、それぞれの目的地の建物の方向へとバラけていき、気付けば人は疎らになっていた。
しかし、私の受験票を拾って届けてくれたカレは、どこかに曲がって行くのではなく、相変わらず私の少し斜め前を歩いたままだ。
受験する学部の受験会場である建物を目の前にして、私は溜息を吐いた。
ここまで来ても、先程の動揺を拭えないのか、私の手は依然としてカタカタと震えたままだったのだ。
(……どないしよう……?コレ……。さっきから全然、震えが止まる気配が無いんやけど……。コレ、試験までに止まるんやろか……。こんなに震えたままやったら、文字、書かれへんのんちゃうん……?)
そんなことを考えてると、前を歩いていた筈のカレが、いつの間にか横に立って、こちらをじっと見ていた。
(……?)
カレからの視線を疑問に感じつつも、カタカタと震える手でなんとか傘を畳んで建物の中に入ろうとすると、突然、背後から声を掛けられた。
「……ちょっと待って。……あのさ、手出して」
「……え?」
振り返りつつ、カレを見る。
すると、カレは畳んだ傘を腕に引っ掛けて、黒いコートのポケットに片手を突っ込んでいた。
戸惑いつつも、私は素直にカレの前で自分の右手の掌を広げる。
「……コレ、あげる」
そう言うと、カレは私の掌に手に持っていたモノを私の手には触れないようにして、そっと置いた。
手渡されたのは、温かい状態のままの使い捨てカイロだった。
「……」
私は受け取ったモノを見て、何故、カレがくれたのか訳が分からず、自分の掌を見て幾度となく瞬きを繰り返す。
カレは私に渡すなり、何も言わず再び歩き出した。
無言のまま建物内に入り、階段を上り始めたのだ。
どうやら受験票を届けてくれたカレも、私と同じ学部を受験するらしい。
私もカレに貰ったカイロをぎゅっと握り締め、カレの後を追うように階段を上った。
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