いかないで

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 僕は他人の作った料理が食べられない。むしろ、僕のお父さんの料理も食べていない。  僕は二年前の小学二年生のときに、お母さんが家を出て行ってしまった。  それからというもの、僕は一度も、誰の手料理も食べたことはなかった。  お母さんがいなくなってから、僕は何度か、お父さんの手料理も食べてみたけど、どうしても、人間の食べるものに思えなくて、噛んでいると、気持ちが悪くなって、吐いてしまった。  それからは僕は作っている人の顔が見えない、菓子パンや、カップラーメン、それから、コンビニのお弁当。そういうものしか食べなくなった。  学校の給食も、給食のおばさんが作ってると思うと、食べられなくなって、僕だけ保健室で、菓子パンを食べている。そんなことが続いて、もう二年が経ってしまった。 「海斗くん。明日、カナちゃんの誕生日会をするんだけど、海斗くんにも来て欲しいって言ってるの。海斗くん、一緒に行かない?」  僕は隣の席のアンナちゃんから誘いを受けた。僕は、次の授業の準備をしながら、 「ごめんね。行かない」  そう告げると、アンナちゃんは悲しそうな顔をして、それでも、必死に僕に食らいついてきた。 「カナちゃんが絶対海斗くんに来て欲しいって言うの! だから、ね? お願い!」  言って、僕に手を合わせてお願いしてくる。  正直、誕生日会というのは、何度か行ったことがある。プレゼントを各自用意してきて、その子の家に集まって、その子のお母さんが作った料理や、ケーキを食べる。  それから、みんなで遅くなるまで遊んで、とにかくみんなとわいわいして、交流を深める会だ。  僕には知らないお母さんの手料理も食べられないし、あと、お母さんがいなくなってから気づいた、僕のもうひとつの問題がある。  それは他人の家の匂いが苦手になったことだ。  僕にとって、お母さんがいなくなったことは、どうやら精神的に異常を起こしてしまったようで、僕はまるで、壊れた人形のガラクタになったような気がしていた。  どこかぽっかり空いた心の中はいつも、どんよりとしていて、お父さんの顔を見ても、今まで一緒に過ごしてきたお父さんに見えなくなっていた。  
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