いかないで

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 翌日、放課後になると、僕はアンナちゃんにすぐに捕まった。カナちゃんは先に帰って用意することがあるらしくて、僕とアンナちゃん、他に女子が二人、男子が一人の合計五人でカナちゃんの家に向かうことになった。  カナちゃんとは僕は特別、仲がいいわけではない。だけど、カナちゃんは活発な子で、学級委員長もしている。そんな優等生な女の子の誕生日会にお呼ばれするのは、とても光栄なことらしくて、カナちゃんと一番仲がいい、アンナちゃんは、カナちゃんのために、誕生日会の来客者集めをしていたようだった。  どうして僕が選ばれたんだろう、と、むず痒い気持ちはあったけど、そんなことはどうでも良くて。  問題は、僕が他人の家や、他人の料理が食べられないことが辛いって、人におおっぴらに言えないことがもどかしかった。  小学四年の僕でもわかる。そんなこと、お呼ばれしておいて、言えるわけがない。  僕が給食を食べていないのも、みんな薄々、おかしいとは思っているだろうけど、まさかその原因が、「手料理を食べられない」という普通ではありえないことを思っているなんて、誰も思わないと思う。  僕は、とぼとぼと、ランドセルを揺らしながら歩いていると、僕の前を行くアンナちゃんから、 「海斗くんは、どんなプレゼント用意したの? 海斗くんのプレゼント貰ったらカナちゃん絶対喜ぶと思う!」  そんなことを軽快な足取りで言うものだから、僕は苦笑いを浮かべて、 「そんな立派なもの、用意してないよ。昨日言われたから、近所の文房具屋さんで適当に選んだから」 「それでも、嬉しいと思うよ! ああ、誕生日会楽しみだな。何が出てくるんだろう、ご飯! カナちゃんち、お金持ちだからなあ!」  アンナちゃんは他の女の子たちと、和気あいあいと今日の誕生日会のことを話していた。  僕はその言葉の羅列が、ただのノイズにしか感じられなかった。もう一人の男子の井出くんは、女子たちの会話についていけないのか、後ろで歩いている僕の方に寄ってきて、 「海斗も、楽しみだろ? ご飯! きっと、でっかいチキンとか、ハンバーグとか、カレーとか、いっぱいあるんだろうな! 俺、うまいもの食べれるっていうから付いてきたんだ。ウチじゃ、いっつも煮物ばっかりで食べ飽きてるし。今日は腹いっぱい食べて帰る!」  井出くんも、そんなことを言いながら、なんだか楽し気だった。僕からしたら、家で煮物ばかり食べられる井出くんのほうが余程羨ましかった。
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