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「どしたぁ?」
武田が俺の肩を手で掴んで、ぐいっと、自分のほうへ向ける。
「やめ…」
その勢いで、目にたまっていた涙がこぼれた。
「おま…」武田が驚く。
「なんでもないて!」
「なんでもないことないが…!」
そう言って武田は俺の顔に手を伸ばし、頬をぬぐった。
「泣いてくれるんか…」
「泣いとらんし…」
俺は首をふる。
「めちゃくそ泣いとるがや!」
「泣いとらんて!」
俺はさらに大きく首をふったが、武田が、俺の両肩に手を置いて、それを否定するようにゆっくりと首をふった。
「俺も…っ、でら寂しいでかん…」
そう言う、武田の瞳も、表面張力の限界を迎えていた。
雫が筋になって、武田の顔を伝う。今度は俺が武田の頬をぬぐい、それから俺たちは鼻をすすりながらお互いを見つめ合った。
夕暮れの風が、ゆっくりとふたりの間を通り抜ける。
土手に伸びる、ふたつの影が寄り添い、そしてひとつになった。
風は、ふたりの周りをやさしく包んでいる。
夏が終わりを告げようとしていた。
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