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2日目
初めて少女と出会ってから一日が経過した。やはり改めて昨日のことを考えてみても不自然なことばかりである。僕はどうしてもあの女の子のことが気になってしまい、学校もさぼり公園に向かっていた。
しかし公園にはゲートボールを楽しむ老人しかいなかった。ワンピース姿の少女も猫の姿も見えなかった。もちろん同じところにずっといることなどないのだろうか僕にはそこしか少女との接点がなかった。
公園で少女を見つけられなかった後も諦めきれず、公園の周りを一日中探し続けた。結局夕方になっても少女と会うことはできず、一旦家に引き返すことにした。
このまま闇雲に探していても見つかる訳がないとは薄々感づいていたので、もう一度昨日と同じ時間に公園に行こうと決めた。夜中ならもう一度あの子と会えるような気がしたのだ。
どうして僕はこれだけ必死になって女の子のことを探しているんだろう。自分でも訳が分からず馬鹿らしくなってくる。それでもどうしてももう一度あの子と会ってみたいと心の底から思っていた。
結局その思いに身を任せ、昨日と同じ時間に家を出て行った。
まっすぐ公園に向かい中に入っていくと、昨日とまったく同じ格好をした女の子が公園の中央に座り込んでいた。同じ格好というところに疑問を持つべきなのだろうが、不思議とそれが当たり前のように受け入れている自分がいた。
「こんばんは。今日も猫に餌をあげているの?」
できるだけ女の子を驚かせないようにさりげない形で話しかける。周りにいた猫たちは僕を警戒して少しだけ距離をとった。
「猫に餌をあげたいの。でも今日は餌を持っていない」
女の子が無表情のまま話す。確かに少女の手には猫の餌がなく、手持ちぶさたに近くにいる猫の頭を撫でている。
「じゃあ僕が買ってくるよ。すぐに戻るから少しだけ待ってて」
そう言い残し公園から急いで出て行く。そこまでしてあげる義理などないだろうが、自然と体が動いていた。
それから近場のコンビニで猫用の餌をいくつか用意してすぐに公園へと戻った。少女は僕の言いつけを守ったのかは分からないが、公園を出たときと同じ状態で待っていた。
「ありがと」
少女に餌を渡してあげると、無表情のまま餌を与え始めた。餌があることに気がついた猫たちは、僕に警戒しながらも彼女の元に近づいていく。
「僕も餌をあげていいかな?」
そのままただ眺めているのも退屈なので、少女に確認をとってみる。女の子は何も言わずに手に持っていた餌を僕に差し出してくれた。どうやら一緒にいること自体は拒否されていないようだ。
「ありがとう」
それからしばらく二人で無言で餌を与え続けていた。僕からも餌がもらえると分かってもらえたのか、猫も少しだけ警戒を解いて僕の元に近寄ってきてくれた。
「昨日はなんで急にいなくなったの?」
猫の頭を撫でながら昨日突然いなくなった理由を尋ねてみる。今の状態なら本心が聞けるような気がした。
「今日は満月じゃないね」
少女は僕の質問には答えずぼそりとつぶやいた。
満月は昨日のはずだから今日が満月でないのは当たり前だ。僕も一緒に空を見上げながら、そうだねと頷いたが返事は帰ってこなかった。
再び視線を少女に戻すと、その場から少女はいなくなっていた。周りには猫の姿しか見えなかった。
これが僕と少女との二日目の話。この日の空には弦月が浮かび上がっていた。
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