4日目

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4日目

ここ最近、というよりはあの女の子に出会ってから生活が前よりも楽しくなってきた気がする。  あの子と一緒に深夜の公園で猫に餌をあげることが僕の楽しみになっていた。この今まで味わったことのない感情は何なのだろうか。恋愛感情になるのだろうか。そんなことも考えたがそれとはまた異なる感情のように思える。  感情のことにしてもそうだが、彼女についてはまだ分からないことの方がはるかに多い。毎回聞きそびれてしまうが、彼女はどうして毎日あの公園にいるのだろうか。  あれだけ遅くに一人で外出していて親は心配しないのだろうか。そもそも家がどこなのかも分からないし、年齢も通っている学校も分からない。考えれば考えるほど、彼女は存在は霧のようにつかめなくなっていく。  そこで僕は一つの決心をした。今日こそ彼女のことを色々と聞いてみようと。ここ数日の間で少しは仲良くなれただろうし、今なら少しは話してくれるかもしれない。それで困っていることがあるなら助けになろう。  気がつけば僕は自分が一番嫌っていた偽善者になろうとしていた。だけどそうなることに対して抵抗はなかった。彼女の助けになれるなら自分がどうなろうとどうでもよかった。それよりも今は単純に彼女のことを知りたかった。  そんな決意のなか夜の迎えた。いつも通りの時間に公園に向かうが、今日は周りが騒がしい。いつもはほぼ無音の道には深いなバイクのエンジン音が複数鳴り響いている。  あの公園にいて女の子とトラブルを起こしていないだろうか。少女のことが心配になり、急ぎ足で公園に向かった。  公園を見渡してみると、いつも通り女の子がしゃがみ込んでいる以外変わった様子はなかった。 「こんばんは」  いつものように声をかけると、彼女が少し悲しそうな表情をしてこちらに振り返る。 「こんばんは。……今日も餌忘れちゃった」  僕を見上げながら悲しそうな声で忘れたことを告げられる。それに合わせてか周りの猫たちも僕のことを見つめてくる。僕が餌を持っていることを期待しているのだろう。 「ごめん……僕も餌を忘れちゃった」  女の子に色々聞くということに意識が向いていて、僕自身餌を持ってくるのをすっかり忘れていた。その事実を知ると、少女はさらに悲しそうな表情をする。 「じゃあまた前みたいに近くで買ってくるよ。少しだけ待ってて」  あの子の悲しそうな表情が見ていられなくなり、駆け足で公園から出て行く。 「行っちゃだめ!」  公園を出た直後、今までに聞いたことのないような大声で少女が叫ぶ。それと同時に横から強烈な光が浴びせられる。  光につられて横を見ると、猛スピードでバイクが向かってきている。さっきまで遠くに聞こえていた爆音はすぐそこまで近づいていた。  ……早く避けないと!  脳の中では避けろと全身に命令を出しているが、体はまったく言うことを聞かない。突然の出来事で体はパニック状態に陥り動こうとしない。  そうしている間にもバイクはどんどん近づいてくる。光と爆音はすぐ間近まで来ていて、もう動いても間に合わない距離にまで来ていた。  ……ドン!  何か堅い物体同士がぶつかるような大きな音があたりに響いた。まさに誰かがひかれたような大きな音だ。  ……僕は死んだのだろうか。目を開けたら絵に描いたようなお花畑が広がっているのだろうか  恐る恐る目を開いてみるが、そこはお花畑でもどこでもなく公園の目の前であった。公園を飛び出したときとまったく同じところに僕はたっていた。  いったい何が起こったのだ?  どうして僕は無傷なのだろうか。あの状況は絶対にひかれるはずである。現に大きな衝突音だって鳴り響いていた。  不可解な現象が立て続けに起こり、自分の脳で処理できる限界値をこえてしまう。この状況を整理する意味も込めて再び公園に戻ることにした。道端で考えこんでまたバイクが来たりしたらたまったものではない。  公園の中に戻ると、中には誰も残っていなかった。大声で危険を知らせてくれた少女はいなくなっていた。それに彼女の周りにいる猫たちも一匹もいなかった。公園内にいるのは僕だけになっていた。  これが僕と少女との四日目の話。空からは霧雨が降り注ぎ、僕の体と心を冷ましていった。  
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