5日目

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5日目

次の日になっても、あの時に何が起こったか把握することはできなかった。もしかしたら昨日の一連の出来事はすべて夢だったのではないかとも考えた。だけどあれだけ鮮明に覚えていることが夢であるとは考えられなかった。   それに女の子は僕が飛び出した瞬間にどうして危ないと分かったのだろうか。  いくら考えても思考がまとまることはなかったし、納得のいく答えが見つかることはなかった。結局はあの子に会って直接問いただすのが一番的確だろう。  夜になり公園に向かう支度始める。今回は猫の餌を忘れていないか念入りに確認をした。これで大丈夫なはず。  最後にもう一度餌があるかを確認してから家を出る。今日は昨日とは違い周りは静けさに包まれていた。いつもの道が戻ってきたことに思わず安堵する。  それからすぐに公園にたどり着いたが、公園の中には誰もいなかった。いつも中央でしゃがみ込んでいる少女の姿もない。そして彼女の周りに集まっている猫たちもいなかった。「どうしてだろう……」  いつもならここにいるはずの少女がいないことは僕にとってはかなりの衝撃だった。冷静に考えれば毎日ここにいることの方が不自然なのだが、彼女がこの場所にいるのは何か必然せいなものがあった。それが急に失われたことに激しく動揺した。  彼女がいないことが受け入れられず、いつも彼女がしゃがみ込んでいる所に座り込む。それから何か考えることもなくただ無意味に時間を過ごした。  彼女がここにまた来ると信じて待つが、その気配は一向に見られない。時間が経つにつれ、ただ寂しい気持ちが膨らんでいった。  もうあの子も猫たちもここには来ないのだろうか。一人でいる時間が増すにつれそんな不安が心の中で広がっていく。  すると僕の隣から、ふわりとした暖かい感触が伝わってくる。そこに目をやると、僕の横に一匹の猫がすり寄っていた。  いつも公園にいる少女のワンピースのような純白の毛並みをした猫だった。  その猫を見ると自然と涙が流れてきた。何の前触れもなく一筋の涙が僕の頬を濡らす。  これは悲しみの涙なのか?  それとも安堵の涙なのだろうか?  涙の理由は分からない。ただ分かるのはすぐ近くにいる猫が、女の子と同じような神秘的な雰囲気を持っているということ。いつも彼女といるときに感じる安心感のようなものをこの猫が連れてきてくれたこと。  僕はこの涙は、安堵の涙なのだろうと強く感じた。  涙を拭って、僕はその猫と一緒にずっと空を見上げ続けた。猫は逃げる様子もなく僕のそばに寄り添い続けてくれた。  二人で眺めた空には四日前に見たはずの満月が煌々と輝いていた……
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