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『プロローグ』
今は23××年。
2000年少し前あたりから、国内の各地で災害が頻繁に起こり、この小さな島国である日本は急激に人口を減らした。高齢者はもちろん、少子化と言われていた矢先での次々に起こる災害により人口が激減した。
生き物は本来、自然による数の急な増減を即座に進化をする事で、自分たちの個体数をコントロールできる。しかし人間は、手先を思うように使える器用さと頭脳が、他の生き物に比べて発達していたので大きな進化がなかった。
それでも2000年前後の災害での人口減少は、他の生き物同様、進化しなければならない程になっていた。
1970年代後半からペットブームが絶えなかったこの国では、後に研究が進められ、国民が親しむいくつかの動物や昆虫の遺伝子を人間に組み込み、淡白になっていた性欲や、1回の出産で生まれてくる数を調整し、増えるようにした。昔は1回の出産時は、ほぼ1人。稀に双子や三つ子だったが、今は多数出産(2人以上)が一般的になった。又、妊娠してすぐならば、両親の経済的不安を軽減するために、希望する人数まで減らす事もできた。
それ以外にも大きく変わった。2016年代あたりから、人獣・オメガバースのアニメが、ある層に人気があり、アニメ大国らしくと両方の特性も加える事にした。
人獣からは、動物の耳や尻尾、見た目と愛くるしい仕草、体質などを。オメガバースからは、ホルモンの体質により、一部の男性も妊娠可能という特性を創る事にした。
☆ ☆ ☆
「やっと昼だ~。あ~、腹減った~。歩夢~、お前終わったか?」
「もうちょっと。これだけやっちゃうから先に行ってていいよ」
お腹空いたと横で叫んだのは、僕の幼馴染みの、
『大狼 信輝(おおがみ のぶてる)』24歳。オオカミ種。
そして僕は、
『貓谷 歩夢(ねこたに あゆむ)』24歳。猫種。
僕たちは、今の時代では珍しく一人っ子だった。生まれた時から隣同士で、お互いに一人っ子だったからか、兄弟のようにずっと一緒にいる。お互いの両親は、僕たちが生まれる前から家族ぐるみで付き合ってきた。
僕たちがいるこの会社は、僕と信の父親が経営する会社で『ONコーポレーション』。他の会社に入社しようかと思っていたけど、何となく流れで2人ともここにいる。
「終わった~。――お待たせ。ごめん、いつも待たせて悪いね」
「いや、お前の方が細かいのやってるから仕方ねえだろ?お前は、俺と違って細かいの好きだからな」
僕の作業も一段落して、2人で食堂へ行く。
「おばさん、来たよ~」
いつものように信は、元気に自分たちが来たコールをした。
「やっと来た。2人とも、いつもよりも遅いじゃない」
「うん。僕の仕事が終わらなくてさ」
「そう。――はい、これね。2人とも、残さず食べるのよ」
周りに社員がチラチラ見る中、母さんから食事を受け取った。
僕たちの母親は、この会社の食堂で働いている。若い社員の健康を考えて始めたと言っていた。そして僕と信のお昼は、メニューにはないものを、母親の特権だと言って作ってくれている。
それを持って、空いている席へ座った。
「さ~て、飯だ。いっただきま~す」
信はオオカミ。そのせいか食欲が凄い。子供の頃から僕の3倍以上食べる。
「おっ。俺のは唐揚げもあるぞ」
「良かったね。僕の…、多いなあ。魚以外、食べられる?」
「ああ、いいよ。でもさ、お前。最近、食事の量が減ってねえか?元々多くないのに、更に減って大丈夫かよ?」
「う~ん。何か、身体が変なんだ。風邪かなあ?」
僕は猫種だからか、普段から信と比べてあまり食べない。同じ種の中では普通だとは思うけど、でも昔から『お前は周りと比べても少食だぞ』と言われていた。それが最近、更に食べられないでいた。栄養が足りないからか身体も何となく重かった。
【変だなあ…】
信と食事をしていると、フワッと甘い香りがした。
「ん?何かいい匂いしない?甘い系の」
「そっかあ?女の子の付けてる香水だろ」
「そうかなあ。香水って感じじゃなかったんだけど…」
「お前が匂いを気にするって珍しいなあ」
「アハハ。そうだね。――でも何でだろう?何か急に気になる」
信が言うように、僕はそういうのには興味がない。そこそこの身だしなみはちゃんとするけど、それ以外の事は全然。それだけじゃない。恋人とか、そういうのも特には。200年以上前より少子化を止めるために動物の遺伝子が入ったというのに、僕には興味がなかった。
さっきの香りが気になりながらも食事を終え、自分の課へ戻った。そして、しばらくは普通にPCを叩いていた。
【ん?あれ?これはさっきの…】
食堂で嗅いだ香りが、またフワッと鼻に入ってきた。急いで周りを見渡した。
【え?】
出入口の方を見た時、1人の男と目が合った。
〈ドクン〉
【何、これ】
その人と目が合った瞬間、心臓がドクンと大きく鳴り、身体が熱くなる。そして〈ハァ、ハァ〉と息が上がった。
「貓谷さん、大丈夫ですか?顔が真っ赤ですよ?」
「何か急に体調が悪くて。ちょっと席を外しますね」
心配してくれた向かいに座る同僚にそう伝え、イスから立ち上がろうとした。しかし、めまいがして、そのまま意識を失くして倒れてしまった。
「貓谷さん、大丈夫ですか?貓谷さん」
周りにいた人たちが驚き、声を掛けていた。
―――「すみません、いいですか?」
出入口にいて目が合ったその人が、僕の周りにいた人を掻き分け、傍へ来る。そして、僕を抱き上げ、医務室へ連れて行った。
〈はじめまして。僕の番さん――〉
なかったはずの僕の意識の中で、その一言が聞こえた。
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