第2話 新人教育

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 ポンプ車の後部座席に乗り込み消火栓点検に出発。サイレンは鳴らさないが、赤色回転灯をつけて走り出した。が、遅い。20㎞/hほどで走行している。時折、車を左に寄せて後ろの車を先に行かせる。 すると助手席の班長がしゃべりだした。 「遅いでしょw。念のため、煙が上がっていないかとか、臭いはないかとか、危険物がないかとかチェックするんだよ。だから、できれば窓も少し開けておいてね。エアコン使う季節は締め切っていても仕方ないんだけど。」 「そうなんですね。少し開けときます。実際、点検中に火災を発見したことはあるんですか?」 「ないと思うよ。少なくとも俺が入団してからはないよ。その前もないんじゃないかな。そんな話し聞いたことないから。でも、町内をゆっくり走って赤色灯つけて走ってる消防車を住民がみて、ちょっとでも火の元に注意してくれれば意味があるんだよ。泥棒がパトカーと間違って、防犯にもなるかもしれないしw」 (まぁ、そんなしょっちゅう火災があっても困るわな。泥棒が間違えるってw)とか思ってた。 「あっ、でも歳末警戒ってのがあるんだけど、そん時、他の分団であったよ。」 (えっ、あんの!ちゃんと見なきゃ‼)  そんな話をしているうちに消火栓に到着した。消火栓は道路に設置されている。というより、水道管の埋まっているところに丸や四角いマンホールがあって、そこ設置されているのだ。雪国などでは、アメリカなどでよく見るような地上に設置された消火栓もある。町畑市はほとんど地面にある。 「ここは土手の際だから、土砂が入りやすいんだよ。とりあえず、車に気を付けて下車ね。小山さんは消火栓の鍵とスピドルドライバーの用意ね。機関員は待機してください。新人君は懐中電灯もっておりてね。」 僕は懐中電灯を持っておりた。小山さんは下車後、車両後方から鍵とスピンドルドライバーをとってきた。 「小山さんちゃんと点検の仕方覚えてる?」 「覚えてますよ。2年目ですよ。」 「じゃ、新人君にお手本見せてあげて」 小山さんは十字型の道具を先に手にし、 「これが鍵ね。」と僕に教えてくれた。 どう見ても、鍵というより引っ掛けのついた十字の棒だ。それを使ってマンホールを開けた。すると消火栓が現れた。 「うん。土砂はいないね。埋まってたら掘り出さなきゃいけないけど、必要なさそうだね。じゃ、普通に点検しようか。」 消火栓には水が出る丸い部分とスピンドルドライバーを刺す四角い部分がある。小山さんは次にドライバーを使い、これでもかと言わんばかりの慎重さで数ミリずつドライバーを回し始めた。すると班長が 「これは水道管の本管だから、ものすごい圧力がかかってるんだよ。普通に開けてしまうと10メートル以上の水柱が上がって大変なことになっちゃうから慎重にやってるんだ。」 すると滲むように水が出てきた。 「OKだね。小山さん、止めて、次行こう。」 水を止め、マンホールを閉め、次に移動を始めた。 「次のところは、土砂で埋まることはまずないけど、水はけが悪くて雨が降るとマンホールを開けると水でいっぱいになっちゃうんだ。だから錆とかでドライバーが回らなくなっちゃう可能性があるんだ。もしそうなら市役所に報告しなきゃいけないんだ。」 車内でそんなことを教えてもらっている間に到着。同じように僕は懐中電灯で照らし、小山さんが開ける。見た目で特に錆とかはない。スピンドルドライバーも問題なく回り、水が滲み出てきた。 「問題ないね。じゃ、次行こう。」  という感じにこの日は5か所ほど回った。すべて問題なく詰所に戻ることになった。詰所に残っていた団員も合流し、ポンプ車を車庫に戻して、2階に上がってお茶になった。  こうして、初めての点検は初めて見るもの、覚えなきゃいけないこと盛りだくさんで終了したのだった。  消防団は詰所で呑んでいるというイメージのある人が結構いる。それはこの時に呑んでいると思っているからだ。確かに昔は呑んでいたそうだ。だが、今のご時世、呑んでいる人は少ない。まして8分団は車で詰所まで来る人が多い。歩いて来れる人が1本飲むことはあっても、酔っぱらうまで飲む人はいない。350mlのビールを1ケース買っても消費するのに1年程度かかっている。まぁ、他の分団では徒歩圏内に住んでいる人が多くみんな飲兵衛と聞いているから分団の特色なのかもしれない。 (入団した頃はまだ激励やお祭りなどの警戒のお礼にと町内会や住民からいただいたビールがあったが、現在では詰所にアルコールを置かないようにと市から指導が入っている。)
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