登場人物の気持ちがわかりませーん

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登場人物の気持ちがわかりませーん

「さ、国語の勉強しよか」  ああー、出た。国語かあ。なにをすればいいのか最もわかりにくい科目、それは国語。  登場人物の気持ちや作者の言いたいことを当てなきゃいけない、エスパーの訓練みたいな科目。その難敵、国語やるんですかあ。  て、あたしが逃げてどうする。自分の勉強じゃん。 「国語ってその人が持ってる素養とか言葉への解釈が影響してくるから、数学の公式みたいにパシッと形にして示しにくいんよ」  なんだか要領を得ない話だな。バシッと形にしにくいって言うけど、できる人はどんどん点数かせいでるんだよ。 「でも正解があるんでしょ?」 「そうなんや。そこが問題なんや。わかる人には全然難しくないのに、わからん人にはホンマわからんのよ、国語って。だから、なんかわけのわからん科目になるんよ」  そうそう、その通り。 「うーん、イマイチだったころから平均点ぐらいは取れてたけど、ほかの教科に比べたら、そんなに伸びてなんだよねえ」 「よう見てるな、あんたこんな短い期間でえらいしっかりしたな。男子三日会わざれば刮目して見よ」 「なにそれ?」 「がんばってる人は短い間でもめっちゃ成長するって意味。まあ、あんたは女の子やけど」 「よく知ってるよね、そういう言葉」 「まあ、なんせ長生きしてますから。亀の甲より年の劫」  そうだよね、神さまだもんね。 「でな、明日いっしょに本屋さん行こ。学校休みやろ」 「なにしに?」 「本屋さん行くねんで。本探しにに決まってるやん。それとも鬼ごっこでもするか? 棚がぎょうさんあるから、かくれんぼしながら逃げれるで。面白そうやん」  しないって。頼むよ、もう子供じゃないんだから。そんなの小学生でもしないから。  でもこの人なら、本当にやりかねないからな。そういうアホなことしそうな感じがすっごいするもん。 「なんの本探すの?」 「国語の解き方の本やがな」 「そんなのがあるの?」 「あるんやな、これが」  昨日はなかなか楽しいお買い物だった。ちゃんと思い通りの国語の本も買えたし。 『これでバッチリ、文章題読解のコツ』  いやあ、こんな解説本があるなんて知らなかったよ。 「さ、やろか」  縁切りさまが虎の巻を開く。 「怒ったとか喜んだって書いてあると、登場人物の気持ちがわかりやすいんだけどなあ」 「それやと問題にならへんがな」  たしかにそうだ。答えダダもれだ。 「でもほら、ここみたいに『侮辱された太郎は、顔を真っ赤にして拳をふるわせた』 なんかわかりやすいやろ」 「怒ってるんだよね」 「そうそう。人って大体決まってるやん、こんなことされたらこんなふうに思うって。まずそういう気持ちになってへんか、言葉や文章でたしかめてみる」  ふむふむ。 「でもたまーに、普通に思うのと違う気持ちのときがあるんよね。まあそう言うのが問題になるんやけどな。こことか。『馬鹿者とおじいさんに殴られた次郎はうなだれたまま動けなかった。そんなにも大切にされていたなんて、思いもしなかったのだ』 どう?」 「大切に思われてたんだって思った。いやあ、これじゃなんか違うよね」 「よう考えてみ」  えーっと、バカモノでパンチだよね。でも次郎は怒ってる感じしないしなあ。うなだれてるってことは、へこんでるのかな。いや、こんなの国語の解答らしくない。あら、これってもしかして。 「喜んでるとか反省してるとか。あ、なんか感動してるんじゃない?」 「そうそう、どっからそう思った?」 「殴られたのにやり返したり、言い返してないもん。うなだれたまま動けなかったって」 「な、そういうふうに登場人物の仕草やようすを書いた文章から気持ちを想像するんや」  なるほど。そういう目で読めばわかる気がする。数学といい国語といい、タネをかくしてばっかだな。  読解の本にはほかにもタネ明かしがたくさん載っていた。  爽やかな風が吹きつけてきた イコール 登場人物も爽やかな気分になっている。  生ぬるい風が吹きつけていた イコール 気分イマイチ。  同じ風でも感じ方が違うんだ。この違いが登場人物の気持ちの違いなんだ。景色の見え方や出来事の感じ方で、自分の気持ちを表してるんだ。  そうか、言葉の奥にいろんなことがかくされてるんだ。 「国語って言葉をどう解釈するかで見え方が変わってくるやろ。それ以前に、言葉自体を知らんかったら想像もできへんし、間違ってその言葉を認識しとったらやっぱり変な答えになるしな」  この本を読む前に今の縁切りさまの言葉を聞いても、まったくわからなかったはずだ。  これはちょっとよく読んで国語のルールを知っとかないといけないな。こんなことも知らずに問題ばっかり解いても、できるようになんかならないよ。
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