10人が本棚に入れています
本棚に追加
赤鬼は本当におかしな鬼なのである。普通、一回二回とあんな目に合わされればそれで懲りる。無論、青鬼が持ってきた食べ物や飲み物が火を噴くのは、青鬼が何かしら仕掛けているわけではない。赤鬼が何かを口にしようとすれば、例外なくそれらが勝手に火を噴くだけだ。
それでも、毎回毎回青鬼が持ち込んだものを受け取って、律儀に火傷を負う。こんがり焼けた肉や魚を食う青鬼の姿に、指をくわえて羨ましそうに見てくることはあっても、恨み言の一つも口にしない。そうしてまた青鬼が持ち込むたびに、「うまそうだ」「ありがたい」と喜ぶのである。
もう一つおかしなところは、この鬼が『月を食べる』という点だ。
しかし月があるのは、はるか天空だ。手の届かぬ遠い遠い果て。なのに赤鬼は自分が月を食っているのだと断言する。
「証拠に明日、月を見上げてごらんな。あっしが食った分、月が欠けているから」
翌日、確かに月は少しだけ欠けていた。さらに翌日、さらにさらに翌日。十五日かけて綺麗さっぱり月の消えた夜空を見上げながら、得意げな赤鬼に青鬼は思った。
(こいつは真性の阿呆ではなかろうか)
翌日からは天に月が満ちていった。さらに翌日、さらにさらに翌日。十五にかかけて、見事な満月が天に昇っていた。――月とはそもそも、こういうものだ。
尚、月が満ちる間は、赤鬼も月を食うのは止めておくらしい。
最初のコメントを投稿しよう!