月を食う鬼

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 赤鬼は本当におかしな鬼なのである。普通、一回二回とあんな目に合わされればそれで懲りる。無論、青鬼が持ってきた食べ物や飲み物が火を噴くのは、青鬼が何かしら仕掛けているわけではない。赤鬼が何かを口にしようとすれば、例外なくそれらが勝手に火を噴くだけだ。  それでも、毎回毎回青鬼が持ち込んだものを受け取って、律儀に火傷を負う。こんがり焼けた肉や魚を食う青鬼の姿に、指をくわえて羨ましそうに見てくることはあっても、恨み言の一つも口にしない。そうしてまた青鬼が持ち込むたびに、「うまそうだ」「ありがたい」と喜ぶのである。  もう一つおかしなところは、この鬼が『月を食べる』という点だ。  しかし月があるのは、はるか天空だ。手の届かぬ遠い遠い果て。なのに赤鬼は自分が月を食っているのだと断言する。  「証拠に明日、月を見上げてごらんな。あっしが食った分、月が欠けているから」  翌日、確かに月は少しだけ欠けていた。さらに翌日、さらにさらに翌日。十五日かけて綺麗さっぱり月の消えた夜空を見上げながら、得意げな赤鬼に青鬼は思った。  (こいつは真性の阿呆ではなかろうか)  翌日からは天に月が満ちていった。さらに翌日、さらにさらに翌日。十五にかかけて、見事な満月が天に昇っていた。――月とはそもそも、こういうものだ。  尚、月が満ちる間は、赤鬼も月を食うのは止めておくらしい。
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