月を食う鬼

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 その日、青鬼は麓の町から女を数人、酒を数樽奪ってきたというのに、全部他の鬼たちに取り上げられてしまった。  昨今は人間たちも馬鹿ではない。都から来たという偉い陰陽師や強い侍を雇って、山から下りてくる鬼たちに対抗してくる。  おかげで今回青鬼が得られたものといえば、肩の矢傷ぐらいなもので。 その傷を揶揄する鬼大将の笑いが、未だ頭の中で響いていた。  鬱々としたものを抱え、今晩の飯にと山で狩った熊をひきずりながら、いつもの広場に向う。こういう時こそ、あの赤鬼の阿呆さを見たくなるのだ。  今宵は月が満ちる側だ。きっと赤鬼は腹をぐうぐう鳴らしているだろう。  いい加減付き合いも長くなった。 最近は、せっかく持って行った食い物や飲み物を、ほんのちょっとくらいならわけてやってもかまわぬのに、とすら青鬼は思えている。  しかしどんなうまそうな魚も、肉もあの小鬼は受け付けない。鬼である以上、衰弱死するようなことはまず無いのだろうが・・・。  かくして思った通り、広場の岩の上で天を見上げる赤鬼は、指をくわえて腹からぐうぐう。狩った熊を見せてやれば、喜色満面で青鬼を迎えてくれた。  この小鬼はこの山で唯一、青鬼を虐げることのない鬼である。青鬼は、その姿に肩の力を抜きながら――どうせこの熊も食えないだろうに。などと意地の悪いことと、少しだけの寂しさを思った。
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