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そいつは、とてもおかしな鬼だった。
童ほどの身長、でかい頭と均整の取れていない小さな体。骨の浮いた上半身、針のような両腕、両足。反してでっぷりと膨れた腹の、その中身は空っぽで、飢えすぎたが故にああなるのだという。
鬼とは本来、人間たちに恐れられる存在である。大半が見上げるような巨軀、毛むくじゃらの手足、鋭い爪と牙の恐ろしい様相。
理を超えた力で欲望のままに金品を奪い、物を壊し、人や家畜を殺す。そういう存在であるはずだ。なのに、この山の中腹にある小さな広場のど真ん中。ぽつりと一人、岩の上に腰掛けるいかにもひ弱そうな姿は、いっそ草食動物の類いかと思ったぐらいだ。
そいつが同じ鬼なのだと知った時は心底驚いた。
そいつは夜にしか現れず、そしていつも空に向って大口開けて、空気を食んでいた。
何をしているのかと聞けば、へらりと笑って答えた。
――月を食べてるのさぁ。
骨張った気味の悪い顔を、月明かりの下で陰影も濃く満面に笑う様は、ちょっとだけいっぱしの鬼に見えた。
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