0人が本棚に入れています
本棚に追加
/1ページ
ガラス越しの恋心
「その話可笑しいよ」
そろそろ西日が赤みを帯びて来た10月の放課後。
教室に残っていた僅かな生徒達。
普段はおちゃらけている賢太君が語る熱心な話題にあたしはツッコミを入れる。
「窓ガラス越しにUFOが見えたって言うんでしょ?」
「そうだよ」
あたしのツッコミに賢太君は当然のように答える。
「だから、それなら賢太君が移動したらガラス越しに見えた物も移動先のガラス越しに見えなくちゃ可笑しいよね」
「そうだよ」
賢太君はむっとした表情で答える。
「でも今の賢太君の話しじゃ、自分が移動したのにそのUFOは同じガラスに見えて居たって」
あたしは堪えきれずに笑いだす。
「あり得ないでしょ、それって」
他愛もない法螺話だと解釈したあたしは笑いながら賢太君の顔を見たが、賢太君の表情は笑顔にはならなかった。
「大崎、俺の話し真面目に聞いて無かったんだ」
酷く傷ついた様な賢太君の言いようにあたしは戸惑う。
(どうして?皆を笑わせようとした法螺話だよね。どうしてそんな顔するの?)
戸惑うあたしを他所に、前席の頭のいい男子が語る。
「ゴーストかなあ……カメラのレンズを通った光が、フィルムの表面にUFOみたいな映像を結ぶことがあるんだけど。滅多にある事じゃないけど気象条件が揃うと別にレンズ越しでなくてもそこいらの物に映像を結ぶことが有るらしいから」
男子の言葉に、傷ついたような表情を見せていた賢太君の表情が和む。
「そうだったのかなあ……まだ小学生の時の話しだから只不思議だなあとしかその時は思わなくて」
笑顔が戻った賢太君がカバンに教科書を詰め始めるのを見てあたしは急いで声を掛ける。
「一緒に帰ろうか?帰り道一緒だし」
一瞬怪訝な表情を見せた賢太君。
(嫌われちゃったのかな)
強張っていた顔を懸命に緩めてあたしは賢太君に精一杯の微笑みを送る。
(拒否られちゃったらどうしよう)
悪気なんかまるで無かったんだ。
只あたしが馬鹿で気が利かなかっただけ。
(このまま別れるなんて出来ない)
通学バッグに運動着をギュウギュウ詰め込みながらあたしは賢太君の様子をそれとなく窺う。
(神様、どうか賢太君が拒否りませんように……)
お願い、届くといいな。
最初のコメントを投稿しよう!