花火が終わる前に

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森が花火で燃えている さんざめいて 夜のしじま、 港に花火が映る 木の陰に隠れてしまった花火は それでも きれいだった 私たちの森が、燃えて、きらめいて、さんざめいている。 私はその花火大会の夜 昼間の近くの公園の 木漏れ日を思い出していた 木漏れ日は、生きている。 そうか 木漏れ日にとってきらめくことが夢なのなら かなってしまってよかったのかもしれない、 燃えている、燃えている、燃えている 私たちの自由な時間が さんざめいた木漏れ日が 燃えている、燃えている、燃えている なくなってしまうから怖いのではない そこにあったという思い出が そこにいたという思い出が いつか老婆になったときに 消えてしまうから怖いのだ 燃えている、燃えている、燃えている いつしか花火は終わり を迎えてしまうのだろう 蝉の声が遠くで聞こえる 森がきらめき、さんざめいている 命を燃すように 光に命があるとするなら 彼らも永遠ではないということだ (何億年もの遠くから死んでいるかもしれない光の一瞬の命、さびしいね) 命あるものはみな 終わりを迎える どどーん、ぱっ どーん、ぱっ そう、 ぱっ、と終わってしまうのだ 跡形もなく (まるで、花火なんかそこにありませんでした、あがってもいませんでしたというように。老婆の私の記憶は、と、切れ、途切れ、花火なんてあの時見たのかしらねえ、ねえあなた、私は何号室に行けばいいのかしら? 今日は何月何日だっけ? 今は冬だった、かしら?) 終わってしまう、終わってしまう、終わってしまう いつまでも続けばいいのに というのは少女の願い事 終わりがあるからこその美は 女になって知った 森がさんざめいている。 きれい きれい きれい きれい、ね。 永遠はいつだって終わりの向こう側から手を振ってくる
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