「ゆるやかな余韻を」

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ここまでお話好きのお客様は 珍しいのです。 看板娘と私は 目を合わせました。 今日の街は 去年より賑やかですね お客様は しなやかな指を絡ませながら言いました。 その動きは 一つ一つが繊細で 今にも消えてしまいそうな透明感。 「甘いお飲み物と すっきりしているお飲み物 どちらが宜しいですか?」 甘いものを と、お答えになったので 取り出したのは、3つのノンアルコールボトル。 オレンジ レモン パイナップル 各フレーバーを適量入れて ミキサーでかき混ぜます。 似たりよったり 3つの暖色が 互いに気を許し合い 出来上がったのは表現し難い 怪しげで豊潤な香り お客様は 外の様子を気にしておられるようでした。 もうそろそろ終わるのですね 気付いてほしいと密かに醸す独り言 その息を 私は そっと受け止めました。 ふわふわ糸を絡めたような形は 切ないラメの輝きが添えられています。 「お客様 こちらの息を頂戴して宜しいでしょうか。」 お客様は一瞬驚いて フフッと笑いました。 ここは 不思議なお店だね 銀色の前髪から 緩んだ瞳が見え隠れ。 黒い瞳は麗しく 赤い瞳は心地よい鋭さ 丸いグラスに注ぎ入れ 魅惑の輝きを放つドリンク その上にふわりと乗せた息は じわりじわりと溶けて沈み 星型クッキーをコロリと飾ります。 「この時間が終わる寂しさと、終わる瞬間までゆったりと過ごしたいお気持ち。どうぞ。」 私はグラスを差し出しました。
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