「嫌い 嫌い 大好き」

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やがてお客様は動き出し 上着のポケットから500円玉を出しました。 これで なにかつくってください か細い注文が入りました。 冷やご飯を取り出して レンジで2分 ゆっくり じっくり 温めて 横目でちらりと伺えば アンケート用紙発見し 絵を描き始めるお客様 鉛筆コロリと音を立て 看板娘が素早く拾う お客様の手のひらに さりげなしにお返しを。 おとうさんが べつのひととけっこんするって。 お客様は口開きました。 看板娘はお座りし じっと瞳は輝きます。 おかあさん まえに しんじゃったの おかあさんのこと わすれないって おとうさんも おいのりしたのに わたしもいっぱい おいのりしたのに きらいなの お客様から流れ出る 小さな小さな悲しみ 小さな頬を するりとつたい コップの中へ 無色透明 冷たい空間 一瞬の波紋が 現れ描かれ消えました。 「お客様が嫌いになっておられるのは お父様でも 別の方でもなく」 お客様は 私の存在に気づくと 椅子から転げ落ちそうになりました。 「周囲の幸せを受け入れられない ご自身ではございませんか?」 私はコップを受け取りました。 「少しばかり、頂戴しても宜しいでしょうか?」 単にいらなかったのか 言葉の意味が伝わらなかったのか 伝わりすぎてしまったのか お客様は 黙って頷きました。 手のひらに さらりと移せば 浮かんで消える言葉たち 丁寧にふるってふるって ひとすくいの温もりに しっかりやさしく包みましょう。 懐かしい味のふりかけを 小さじ1杯 2杯 3杯 ふんわり形が整ったら 甘酸っぱい梅干しを添えましょう。 いつの間にかお客様は カウンター席へよじ登り 看板娘と待っていらっしゃいました。 コトリ と現れた三角おむすび  その1つ目に 手を伸ばして  
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