「混ざり混ざった思いの中で」

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分厚い食パンを3等分 ススっと切って レンジに任せて 約2分 卵黄 ミルク 砂糖 バニラビーンズ 軽くて冷たいボウルの中で 滑って歌って踊りだします。 ほんのり甘い 不思議な香りがホールを包み 看板娘が鼻をヒクッと動かした頃 パシャリパシャリと効果音 お客様が席を立ち 壁や小物を撮影中 こちらに気が付かれると 申し訳無さそうに止めてしまわれました。 ごめんなさい 撮影禁止でしたか? 小さく頭を下げたので 「いいえ。撮っていただけると嬉しいです。」 その言葉に安心したご様子でしたが、撮影を再開する動きはございません。 インテリア雑誌の編集者なんです。 お客様は 教えて下さいました。 色や形を考えて、空間を作っていくことが楽しい。自分が楽しいと思えることで、他の人を楽しませたい。 その魅力と熱意で お客様の道はひらけたそうです。 時々不安になるんです。 自分はあの時のように楽しんでいるのか。 お客様は 悩んでおられるようでした。 時間を割いて仕事に打ち込む日々。厳しい物言いもしばしば。好きという気持ちで飛び込んだ世界が、怖くなって、嫌になる瞬間もある  と。 おかしいでしょう。自分の意志で始めたのに。 お客様は寂しく笑って、席にお戻りになられました。 「白と黒は隣り合わせ。それらは混沌とする時もございます。」 私は冷水を注ぎ足すついでに ノートパソコンの画面に手をかざします。 用語 測定 本音  さまざまな文字がコピーされ ビスケットになって パラパラに 言葉が出ず 固まったままのお客様 緊張をほぐす合言葉 「データは残っております。お客様、少し頂戴しても宜しいでしょうか。」 ひんやり甘いソースに染まり しっとりやわらかトーストを 温めた 広いフライパンに 規則正しく並べます。   じっくりじっくり 弱火でフツフツしてきたら タイミングを見てひっくり返し 雨の音色と ジュージュー音が 華麗に絡みます。 こんがりカラメル色に 変身したら お皿の上で アーティスティックに盛り付けましょう。 軽くシナモンが香る文字を 優しく砕いて 粉雪仕様にふりかけて
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