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私のお願い
「ねえ、明日は何の日か、知っているわよね。」
私は、彼にしおらしく聞いた。
「何だい、柄にもなく気持ち悪いな。土用の丑だろう。それが、何か。」
「もう、わかってるくせに。今月、ピンチなんだ。おごってよ。」
「うどんで良ければ、喜んで。」
「おい、怒るぞ。私がおとなしく頼んでいるのに。何で、うどんなんだ。
土用の丑と言えば、鰻に決まってんだろう。」
「知らないの。もともとは、『う』のつく食べ物を食べると体に良いとされていたんだぞ。うに、うるめ、うずら・・・・」
「うるさい。私は、鰻が食べたいんだ。どうなんだよ。」
私は、上から目線でウンチクをたれる彼に激しく詰め寄った。
「怖いなあ。僕も、新玉亭の鰻丼を食べたいところだが、僕も今月、ピンチなんだ。」
間違っても、大阪へ撮影会に行ったからだとは、口が裂けても言えまい。
「どうしても、駄目。」
私は、これでもかって言うくらいありったけの女の子のウルウルポーズを彼に試みた。
鰻のためなら、三回まわってワンでもするぞ。
「わかったよ。明日、スーパーで買ってくる。鰻丼を、ご馳走しよう。」
「えっ、スーパーの鰻。電子レンジでチンだろ。あれ、フニャフニャしてちっとも美味しくないじゃん。」
私は、率直な意見を申し上げました。
その時の、彼の待ってましたとばかりの顔が、また可笑しい。
可愛いんだな、これが。
「ふっふっふ。君は、何も知らないんだな。僕に、お任せあれ。」
「承知いたしました。どうか、宜しくお願いします。」
私は、殊勝にも頭を下げた。
さあ、明日が楽しみだ。
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