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ヤバイ鰻丼
彼は、アルミホイルを敷き、その上にクッキングシートを敷いた。
まるでお姫様抱っこするかのように鰻を皮を下側にしてそっと置く。
何か、胸がドキドキする。
これは、妄想するなっていう方が無理だよね。
彼は、棚からお酒を取り出し、まんべんなく振ると、蓋をして弱火で3分ほど温めた。
たかが3分、されど3分。
3分がこれほど、長く感じたのは初めてだ。
口の中からよだれが流れないようにするのに苦労するよ。
「さあ、できたかな。」
「うっひょお~」
思ったより簡単な作業だけど、私ならまずやらない。
決まっている。メンドイから。
彼は、丁寧に鰻を包丁で、切り分けた。
彼は用意した丼に白いご飯を入れ、その上に鰻を乗せる。
鰻が、真夏の太陽よりも眩しく光って見える。
「タレは買ってきたから、好きなだけかけて。山椒は好みでかけるがよい。」
「やりい~。」
私は、自分の鰻丼にタレと山椒をたっぷりとかけた。
彼はとみると、タレは鰻だけにかけて、山椒はかけていなかった。
彼なりのこだわりであろう。
聞くとまた話が長くなるから、やめとく。
今にも鰻丼に襲い掛からんとする私に、彼は待ったをかけた。
「お吸い物を忘れてはいけないな。」
彼は永谷園のお吸い物を用意してくれた。
怖いくらい、気が利く。
「それでは、いただきます。」
「いただきます。」
私は、彼が私のために作ってくれた鰻丼を一口食べた。
「信じられない~。これ、老舗の味よ。」
私はお世辞抜きにガチで言った。
「喜んでもらえて、嬉しいよ。」
こんな時の私を見る彼の瞳は、限りなく優しい。
きっとタレも山椒も高価なものに違いないが、ウンチクをたれないところが素敵だな。
私は、パクパクと箸が進み、あっという間に食べてしまった。
彼はと見ると、よく味わって食べていた。
彼のこだわりである。
私の視線を感じてか、彼は余計にゆっくりと食べる。
私の胃袋がまだ満足していないのを知っているくせに、まったく彼ったら意地が悪い。
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