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いつも乗るバスが嫌いだった。時間通りに来ないからとか、乗り物酔いをするからとか、そういうことではない。
後部座席の通路が一段高くなっている、あそこがとても苦手だったのだ。中学2年生にして、身長が170cmに届きそうな私にしてみれば、そこは禁断の地だ。
低い天井、顔に当たるつり革。私がその段差に上がれば、さらに大きく強調されること請け合いである。
なるべく後部座席付近には近づきたくはない。そんな思いもむなしく、今朝も車内で押しに押され、望まぬお立ち台へと押し上げられてしまった。
悪いことは続くものだ。よりによって山本くんと乗り合わせるとは。彼は爽やかな笑みを浮かべ、私の隣を占拠した。
「おはよう」
彼はつり革をゆっくりと掴み、微笑みかけてくる。苦笑いでそれに答えつつ、窓にぼんやり映る自分と山本くんをチラ見した。
外は雲一つない青空、窓に浮かぶ二つの姿。やっぱり私の方が明らかに大きい。
ショックで視界が揺れた。密かに恋焦がれている人よりも明らかに大きい。
気づいてはいたが、改めて現実を突きつけられた気分だった。だから普段、山本くんにはなるべく近づかないようにしていたのに……。
慌てて顔を下に向け、肩を落としてみる。猫背作戦決行……。しかし、そんな作戦ではどうにもならないくらい身長差はある。
おそらく5cm、いや、それ以上……。こうなれば膝を曲げてみるのはどうか。いや不格好だ。それこそ嫌われてしまう。
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