片思い観測

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「まいったよ」  山本くんは自身の学生服を引っ張り、そうつぶやいた。 「ひょっとして、学生服新調した?」  ピンときた。常に遠目から山本くんのチェックは怠らない私である。 「うん。でもブカブカなんだよ。成長期だからすぐに伸びるだろうって」と彼は服の袖をまくりズボンを上げる仕草を見せる。着心地が悪そうだ。 「入学式もね、こんな感じだったんだよ」 「はは、私なんか……」  そこまで言って、私は止まった。私なんか、この身長で制服はお姉ちゃんのお下がりだったから、入学式はブカブカどころか丈が足らなかったよ、なんて言うのか。  そんなこと言えるはずがない。この話題は地雷だ。 「どうしたの? 野宮」  私は慌てながら「今日、快晴だよ!」と窓を指さすが、そこに映っている二人の姿を再確認し、またもや落ち込むのだった。  山本くんは、窓に映る姿など目もくれず、「そうなんだよ、今日は絶好の観測日和」と笑顔を見せた。  知っている。彼は学校でただ一人の天文部員。でも私はあえて知らない素振りをすることにした。そこまで知っていると、好意を持っていることがバレそうで……。 「観測日和?」 「俺、天文部だから。今日は観測日なんだ」 「観測日って何をするの?」 「夜、星を見る」  私は胸が高鳴った。小学校の頃、クラスメイト数人で集まって天体観測をしたあの夜のことを、山本くんは忘れてしまっただろうか。  当時は夏祭りくらいしか夜に外出するイベントがなく、観測会は言い知れぬ高揚感があった。あの頃から山本くんは星が詳しくて、アルミ製のお皿のような器具を使って、丁寧に熱心に教えてくれた。  優しい眼差しで夜空を見上げるその姿に、私は星よりも山本くんに夢中になった。観測会は数回で終わってしまったし、星座のことも忘れてしまったけど、山本くんへの気持ちは今も心に刻まれている。
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