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「どこで見るの?」
「学校の屋上だよ」
「夜の屋上に入れるの?」
「うん。天文部の特権」
そう言って、山本くんは親指を立て、「野宮も来る?」と続けた。
行きたい――。その言葉が声にならない。口が空回り。そんな私をあざ笑うかのように、車内には到着を知らせるアナウンスが響く。
何か言わなくてはいけない。
「私ね、観測が下手でさ」
「何それ」
山本くんが笑う。いいえ、下手なんです。空を見上げるのが。山本くんの前で直立なんてできない。屈みながら上を向くしかないのだ。あの夜もだいぶ苦労させられた。
結局、それ以上は何も言えないまま、バスは学校前に着いてしまった。
降りてから校舎に向かうまでの途中で、答えられればと思っていたが、クラスメイトの由紀と詩織にばったり会ってしまい、その魂胆は粉々に砕け散った。
二人に囲まれ、なし崩し的に山本くんと離れ離れになってしまったのである。
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