片思い観測

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 保健室に入るなり、キヨエさんは「また来たの?」と、呆れたように言った。  でも顔はほころんでいたので、ひと安心。馬鹿で可愛い親戚の子を迎え入れるお姉さんのような表情を浮かべている。  キヨエさんは保健室のおばさんと、周りの人たちから呼ばれていた。だが、見た目は20代前半にしか見えないし、先生と堅苦しく呼ぶような人となりでもなかったので、私たちは下の名前で呼んでいた。 「由紀と詩織来ませんでした?」 「来てないよ」  おかしいなと私は首を傾げた。休み時間になると同時に二人は教室を出たはずなのに。 「また測りに来たの?」 「ええ、まぁ」  私は保健室の隅にある身長計を両手で持ち上げ、キヨエさんの前に移動させた。 「はい、乗って」  上履きを脱ぎ、身長計に乗る。台座の冷たさが、足の裏へと伝わっていく。 「足をぴったりとくっつけて、顎を引く」  気だるそうなキヨエさん。それもそうだ。週2、3回は測りに来ているのだから。頭上にある測定バーが私の頭に下ろされる。  コツンっと間抜けな音が、頭のてっぺんを通じて私の耳元に微かに響く。 「169.2cm」  血の気が引いたとはこのことだ。この前測った時は168cmジャストだったのに。私は何も言わず身長計の台座から降り、下を向いた。  キヨエさんは時計を見ながら「まだ午前中だよ? 今は起きたばかりで背骨が伸びてるからさ」と、フォローを入れてくれる。  苦笑いを浮かべキヨエさんを見る。 「放課後また来ようかな……」  と大きなため息をついた瞬間、保健室のドアが勢いよく開いた。
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