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「沙奈―!!」
大声で私の名前を叫ぶ由紀と、「超やばかった」と連呼しながら私に抱き着く詩織。
「何がどうしたって?」
私は気の抜けた声で返した。
「さっきトイレ行ったら、神崎先輩に会っちゃって……」と由紀が息を切らしながら言い、「スカートの丈が短いだの、眉毛が細いだの難癖つけられてさ」と詩織が続ける。
「で、どうしたの?」と興味津々の様子で、キヨエさんが間に入ってくる。
神崎先輩は、校内では知らない人はいないほどの問題生徒だ。同学年の男子生徒を殴り、停学処分を受けたほどの武闘派である。
「直せって迫ってくるから、逃げて来ちゃいましたよ」と言いながら、由紀はヨロヨロと保健室のベッドに倒れこむ。
「何でそんなに面白そうなんですか?」と詩織の問いに「昔の自分を思い出して」と、頭を掻くキヨエさん。
「最低!」と寝ながら叫ぶ由紀。
「違うって、私も絡まれる側の人間。あんたたちと一緒」とキヨエさん。
「逃げて来ちゃって大丈夫なわけ?」
私は由紀と詩織を交互に見る。
「わかんないけど」と由紀は起き上がり、「でもとりあえず助かって良かった」と詩織は笑う。
呑気な二人を横目にゾクッと寒気がした。私は二人に比べ、とても怖がりだった。これがきっかけで目を付けられでもしたらどうしよう、と考えてしまう。
「ほら、もう2限目始まるよ」
キヨエさんは出て行くよう促す。安息の地だった保健室を追い出され、また恐怖心が増した。
神崎先輩が廊下にいるのではないかという怖さ……。廊下には春とは思えないほど寒々しい空気が満ちていた。
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