片思い観測

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 昼休みになり、音楽室に少しだけ顔を出した。昼練習という名のミーティングである。今日の部活で行う箇所の申し合わせを行ったのだ。  正直、神崎先輩に目を付けられている手前、教室から出る気になれなかった。ただ私自身、顔を知られているわけではないので、そこまで怯える必要はないのだけど。  わかっていてもビクビクしてしまう自分が嫌だった。  背が大きい分、余計に自分の気の弱さが目立ってしまうような気がした。こんな時、身長があると損した気分になる。小さければ怯えていても可愛く映るが、大きいとそうは映らない。  私は心と身体がまるで合っていないのだ。山本くんが着ていた学生服のように、私の身体はブカブカなのだ。体格は良いが心は気弱。外見は目立つのに中身は小心者。身体の大きさに対し、心が追いついていない。アンバランスだ。    私の身体は大きすぎる。ブカブカ、ブカブカ――。と心の中で連呼していると、本物のブカブカに会った。音楽室を出て廊下を通り、階段に出くわすと、上から山本くんが下りてくるではないか。 「やあ」と言いながら、彼は階段を下り切ろうとしたので、私は慌てて声をかけた。 「そのまま、待って!」  山本くんは私の声に足を止めた。  すごく理想的な位置。  私は階段の下にいて、彼は階段を一段だけ上がったところにいる。この身長差だ。好きな人を見上げる絶好のポイント。
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