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「どうしたの?」
私はふと我に返った。どうにかして誤魔化す理由を探す。
「あ、いや、その……何を持ってるの?」
山本くんは手に持っていた、三脚とスケッチブックを私に見せた。首には双眼鏡をぶら下げている。
「太陽の黒点観察をしようと思ってさ、屋上で」
屋上……。そうだ、今日、夜に観測会があるんだっけ。その答えをまだ山本くんに伝えていなかった。
「今日の観測会……」
顔を熱く火照らせながら、不慣れな上目遣いを頑張ってやってみた。頬を引きつらせ、一生懸命笑顔を作る。
今なら言える気がした。
「い、行きたいな」
言っている間、呼吸ができなかった。
「もちろん」
予想以上の笑顔がそこにあった。
「じゃあ、先生に許可をもらっておくから」
直視できない。一等星以上の輝き。彼が別の女の子と仲良さそうにしゃべっている時は、六等星以上に霞むことがあるのに、今日はこんなにも輝いて見える。
不思議な星。片思いの相手を観測していると、その時々で輝き方が全然違う。
「部外者が行っても、平気?」
「見学ってことにすれば大丈夫」
オーケーサインを指で作りながら、階段を下り切る山本くん。つかの間の観測は終わってしまったが、本物の観測が続くのかと思うと、胸の高鳴りが止まらなかった。
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