片思い観測

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 部活が終わった後、理科準備室を訪ねた。ここが天文部の部室。準備室はとても狭く、埃が舞い、化学薬品の匂いが染みついている。  収納棚が室内を囲むように設置されていて、使わなくなった実験器具や教材が所せましと並ぶ。  部屋の中央には小さな黒いデスクが1つ。私と山本くんは、丸椅子を持ち出して、そのデスクを囲んだ。  時計を見ると夕方の6時半。外はほとんど夜になりかけている。 「ちょうどくらいだね」  山本くんは時計を見ながら言った。私は部活を終えてからここに来たが、それでも観測の時間には少し早かったようだ。 「吹奏楽部だっけ?」 「あ、うん」  予想以上に顔が近い。これでは緊張で言葉に詰まってしまう。対面で座れば良かったと後悔した。 「何の楽器?」  言うのが恥ずかしかった。 「チューバ」 「どんな楽器?」 「トランペットをすごく大きくしたような感じで。1mくらいあって……」 「なんでその楽器やろうと思ったの?」  予想通りの質問が来た。チューバは金管楽器の中でも特に大きなものになる。この楽器を担当している理由はただ一つ。私の身体が大きいから。  先生が独断と偏見で決めたのだ。前向きな理由ではないから、この質問に答えたくなかった。
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