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鬼束ちひろの『月光』をカーステで聴いていた。仲間や阿部はあのドラマで大ブレイクした。満月の夜には狼男が出るなんて言うけど本当だろうか?
俺は月夜野で人を殺した。群馬県にある片田舎だ。
月光は実は太陽の光を反射している。
そんなことを『科学大好き』って小説に書いて京都出版に送ったが却下された。月夜野で殺したのは出版社の人間ではない。京アニ事件の犯人ほど俺は酷い人間じゃない。あの犯人は全く関係のない人間を殺した。
俺が殺したのは鈴木っていう派遣会社の営業マンだ。『ファンタジア』って派遣会社で、鈴木はテロを計画していた3年で契約を切って社会に恨みを抱かせることが作戦だ。
満月の夜は血が騒ぐ、俺は鈴木を中華包丁で刺し殺した。
『ファンタジア』を辞めた俺は月夜野でレストランを開いた。
間借りというシステムで、電気代とか光熱費だけを払えばそれでいい。
鈴木は投資家としての顔もあり、牛肉とワインが安くなったのを契機に『パトロン』という食品会社の売り上げが急上昇、鈴木は『パトロン』に大量の株を投資して大儲けしていた。相棒の的場は金を奪うことも考えたが、足がつくのを恐れた俺は反対した。が、的場は俺の意見を聞くこともなく奴の留守中に軽井沢にある別荘に忍び込んだ。
俺に尾行されていることも気づかずに。
俺は月明かりの下ハンマーで的場を殴り殺した。
ゴツゴツ!鈍い音がした。
不思議と月の夜は殺人に成功する。
派遣仲間の山本三郎なんて豪雨の夜に、派遣先の『ベルガマスク』の主任をナイフで刺し殺そうとした。工場は南栗橋、山本の家は境にある。高速に近いので逃げやすい利点がある。だが、運悪く主任の徳田武雄は山本の気配に気づいて警察に連絡。山本は逮捕されてしまった。
俺はドビュッシーの『ベルガマスク組曲』が好きだ。
ヴェルレーヌの詩『月の光』から着想を得て作曲、もとはピアノ曲だが様々な楽器が使われている。
あなたの魂は選ばれた風景
その風景では魅力的な仮面と踊り子『ベルガマスク』が歩く
リュートを弾いて踊りながらも
幻想的な変装の下でどこか物悲しい
短調の調べにのせて歌う
愛の勝利と心地良い人生を、
でも幸せを信じていないようで
歌は月の光に溶け込む
悲しく、美しい、月の光は、
木々の鳥たちに夢を見させ、
そして噴水をうっとりと啜り泣かせる
大理石の像の間からの大きな噴水を
藤原龍斗って『ベルガマスク』の社員がいる。俺は奴からしょっちゅう殴られていた。キュウリの切り方が雑、掃除が遅い、それだけの理由でだ。
奴を『月の光』の詩になぞらえて殺せないだろうか?
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